人文地理学会大会 研究発表要旨
2011年 人文地理学会大会
セッションID: 504
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第5会場
新潟県上越市における圃場整備事業の展開と地域農業の変容
*清水 和明
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抄録

1 はじめに
1961年に制定された農業基本法に基づき,1962年より開始された農業構造改善事業は,事業の名称と内容に変更を加えつつも今日に至るまで継続されている。公的資金の投入によって農業生産の基盤となる圃場の整備をおこなうという同事業の実施をとおして,水稲作部門では農業機械の普及が進展し,土地生産性と労働生産性が向上した(暉峻,2003)。10a当たりの投下労働時間は,圃場整備の実施にともない,農業機械の普及が完了する1970年代以降もみられ,今日に至るまで減少の一途をたどっている(清水,2009)。この要因として,圃場整備事業の実施が関係していることが推察される。
そこで本報告では,近年における圃場整備事業の展開にともなう地域農業の変容を明らかにする。研究対象地域は新潟県上越市(以下,上越市と省略)である。地理学の既往の研究によると,上越市は1980年代以降の圃場整備事業の実施によって,大規模経営農家が増加している(前田,2003;田林,2007)。上越市内における圃場整備事業の実施時期は地域ごとに異なり,事業の実施による地域農業への影響も異なる。そのため,本報告は,上越市のなかでも1990年代後半から2000年代にかけて圃場整備事業が実施された上越市三和区の事例を中心に整理する。

2 地域の概要
上越市三和区は上越市の中央部に位置しており,区の西側を合併前の上越市,南側を牧区,東側を浦川原区,北側を頸城区に接する。区内の東部を除き大半が平坦地し,一級河川の飯田川,保倉川,桑曾根川が流れているものの,かつては農業用水の確保が困難であったことから,約70のため池が点在している。
三和区の2005年における総農家戸数は603戸であるが,そのうち第2種兼業農家の占める割合は373戸と,全体の6割を超えている。経営耕地総面積は1,377haのうち,田の面積は1,335ha(97%)であり,水稲作単一経営をおこなう農家は販売農家の95%に達している。

3 圃場環境の変化にともなう地域農業の変容
三和区全域を対象にした圃場整備事業は,1962年より実施され,1969年に事業が完了している。同事業では1区画当たり10aから15aの圃場の整備がおこなわれたが,1区画当たり30aの圃場の整備は区内の3地区にみられるのみであった。平坦地に位置しながらも,このような小規模圃場の整備に留まった理由には,区内に点在するため池の存在からもわかるように農業用水の確保が困難であったことが関係している。三和区では,前述した圃場整備事業以降に,圃場の再整備は1990年代までおこなわれておらず,区内の農業は1980年代まで小規模圃場に条件づけられた小規模な農業経営が中心であった。 その後,1994年より県営経営体育成基盤整備事業(大区画圃場整備)が実施されることで三和区の農業構造は大きく変化する。同事業は,区内8地区を対象に実施されている。同事業の事業費総額は259億円であり,受益面積の合計は1,610haである。圃場1区画当たり50aを平均に,受益面積の約4分の1を1ha圃場に造成することを目標としている。対象となる全8地区のうち,上江保倉,三和西部,末野の3地区の事業実施地域には合併前の上越市も含まれていることから,三和土地改良区と上越土地改良区が事業を担当している。上江保倉の受益総面積は383haであるが,そのうち三和区内の受益面積は107haである。事業全体の進捗状況をみると,2008年度の段階で全8地区のうち6地区の事業が完了しており,事業全体の作業進捗率は85%である。事業が完了していない三和南部と三和中部第2の事業の進捗率はそれぞれ53%と67%である。事業開始当初の工期は1994年度から2008年度にかけて設定されていることから,工期全体に遅れが生じている。
このように,三和区における圃場整備事業は,一部の地区で工期の遅れがみられるものの,事業の進捗状況は8割を超え,圃場の大型化も進んでいる。この結果,三和区の農業構造は変化している。圃場整備事業が完了した地区内をみると,離農する農家が現れている一方で,営農意欲の高い農家が農地の賃貸借契約を通した経営規模の拡大を図っている。三和区では,圃場整備事業が実施される1990年代半ばより,経営規模が3ha以上を有する農家が増加している。2005年の時点で総農家数に占める経営規模3ha以上の農家の割合は20%を超えており,経営規模が10ha以上の農家は25戸みられる。これらの経営規模を有する農家は,圃場整備事業が完了した地区を中心にみられ,地域農業の担い手として位置づけられている。

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