人文地理学会大会 研究発表要旨
2011年 人文地理学会大会
セッションID: 510
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第5会場
南九州におけるウナギ産業の特徴
*塚本 礼仁
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抄録

1 研究の目的
 JAS法の改正に伴い2002年にウナギ加工品の原料原産地表示が義務づけられたこと,また,産地偽装や薬品残留といった輸入ウナギの不祥事が2000年代を通じて頻発したことにより,安い中国製蒲焼に席捲されていた日本のウナギ・マーケットは国産優位へと急転回した。国内のウナギ産業界においては,“産地”で養殖したウナギをその“産地”で加工する意義が明らかに高まり,養鰻場の増・新設,休止養鰻場の再稼働,既存加工場のリニューアル,最先端のラインを備えた加工場の新設という対応がみられた(塚本2010)。
 本研究では,このような動きが最も目立っている南九州(宮崎県・鹿児島県)について,国内随一の「ウナギ産業基地」としての産地システムを明らかにする。

2 国内ウナギ産業界の現状
 平成22年の漁業・養殖業生産統計によると,国内の養鰻生産量は20,533tであり,そのうち89.7%を東海産地(静岡県1,799t:4位,愛知県5,002t:2位)と南九州産地(宮崎県3,415t:3位,鹿児島県8,199t:1位)で生産する。これらの地域はウナギ加工業の拠点でもあるが,国産優位の流通の中で押し上げられた国産活鰻価格がシラスウナギの連続不漁の影響でさらに高騰し,原料基盤の産地間格差が表面化してきた。
 東海産地では,地元に加工場の少ない愛知県一色地区が,専門料理店向けの活鰻供給に重きを置くようになった。そのため,養鰻業が縮小し,一色産の活鰻に依存してきた静岡県浜名湖,焼津・吉田の両産地は,静岡産どころか国産原料の調達すら難しくなり,“輸入原料の国内仕上げ”を導入する業者も現れている(第1図:上)。

3 南九州におけるウナギ産業の構造
 南九州産地では,西日本の活鰻流通拠点である宮崎県と多数の大規模加工場を抱える鹿児島県が機能的に連結し,“国産”活鰻と“国産”加工品の双方を量産できるウナギ産業基地が形成されている(第1図・下)。その仕組みを簡単に整理すると以下のようになる。
(1)養鰻生産 他産地ではあまり普及していない大規模養殖プラント(養殖池の水温・水質・飼養量・給餌量などをコンピュータで管理)で生産している。
(2)ウナギ流通 南九州産活鰻のうち加工原料になるものは,宮崎の業界最大手の問屋が主導的な役割を担い,鹿児島の加工場(事項のグループ)へと集められる。
(3)グループ化 加工メーカーや加工場を持つ大手養鰻場,産地問屋によって個別養鰻業者が束ねられ,ウナギ関連企業グループを形成している。

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