地理学論集
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論文
大雪山国立公園旭岳における山岳遭難事故を引き起こすリスク要因と安全登山に向けた情報発信対策
方 翀博山中 康裕
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2021 年 96 巻 2 号 p. 19-30

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抄録

山岳環境の安全性に関する情報発信は登山事故に対する防止対策の一環となる。本研究は,山岳遭難事故が多発する大雪山国立公園・旭岳(北海道最高峰)に注目し,事故につながる事例やその要因を明らかにした。旭岳での遭難に関わるリスクの原因について,2016 年8 月に行われた訪問者75 組へのインタビューおよびSNS のレビュー300 件の中で述べられた登山中のリスク体験を分析した結果,事故の背後に潜在する具体的な危険性は,登山道の標識問題,低気温がもたらす低体温症の発生の危険性,天候の急変による危険性,および登山道の路面の危険箇所であることが明らかになった。安全性に関する情報発信について,インタビューの回答から,ウェブ情報において山岳環境の具体的な危険性が訪問者に伝わっていないことや,登山道の標識を見逃しやすいこと,外国人向けの英語情報が不足していること,また,調査時点では分岐ルートに関する難易度(大雪山グレード)が標識に書かれていなかったことなどの問題点が見つかった。本研究では情報発信の改善策として,(1)ウェブ情報では,例えば寒さについて他所との気温差を示すような,訪問者が山の危険性をより理解しやすい情報を提供すること,(2)登山道の標識では,大雪山グレードを利用して色分けし,訪問者が登山道の難易度をわかりやすく気づくように情報を提供すること,(3)散策・登山開始直前に,当日の登山道と天気に関する情報を外国人訪問者にも提供すること,以上の三つを提案する。

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© 2022 北海道地理学会
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