地理学論集
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96 巻, 2 号
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論文
  • 深田 秀実, 橋本 雄一
    原稿種別: 論文
    2021 年 96 巻 2 号 p. 7-18
    発行日: 2021/11/25
    公開日: 2022/04/07
    ジャーナル フリー

    本研究は大津波の到来が予想される釧路市の中心市街地を事例として津波避難ビルの整備状況を概観し,その有効性と課題を住民の徒歩避難に関するマルチ・エージェント・シミュレーション(MAS)から明らかにした。このシミュレーションでは,高層建築物が存在しない地区を対象として住民をモデル化し,居住地の近隣にある津波避難ビルまで水平移動した後に,ビル内の階段で最上階へ避難するまでの行動を想定した。その結果,当該地域では東日本大震災後に津波浸水想定が更新されてから,津波対策により収容人数の多い津波避難ビルが複数建設されたことで避難環境は改善されたことが確認できた。しかし,MAS では,津波避難ビルから離れた地区の住民にとって,津波到達までにビルの上層階へ避難することは困難という結果も得られた。これは,階段を上り始める際の歩行速度の変化や,階段付近における滞留などにより,避難移動が遅滞することが原因となっていた。このように津波避難ビルの有効性については定員数だけから判断するのではなく,水平移動や垂直移動も考慮して,津波到達までの時間に収容できる避難者についても検討する必要があり,そのために本シミュレーション手法は有効と考えられた。

  • 方 翀博, 山中 康裕
    原稿種別: 論文
    2021 年 96 巻 2 号 p. 19-30
    発行日: 2022/04/30
    公開日: 2024/04/22
    ジャーナル フリー

    山岳環境の安全性に関する情報発信は登山事故に対する防止対策の一環となる。本研究は,山岳遭難事故が多発する大雪山国立公園・旭岳(北海道最高峰)に注目し,事故につながる事例やその要因を明らかにした。旭岳での遭難に関わるリスクの原因について,2016 年8 月に行われた訪問者75 組へのインタビューおよびSNS のレビュー300 件の中で述べられた登山中のリスク体験を分析した結果,事故の背後に潜在する具体的な危険性は,登山道の標識問題,低気温がもたらす低体温症の発生の危険性,天候の急変による危険性,および登山道の路面の危険箇所であることが明らかになった。安全性に関する情報発信について,インタビューの回答から,ウェブ情報において山岳環境の具体的な危険性が訪問者に伝わっていないことや,登山道の標識を見逃しやすいこと,外国人向けの英語情報が不足していること,また,調査時点では分岐ルートに関する難易度(大雪山グレード)が標識に書かれていなかったことなどの問題点が見つかった。本研究では情報発信の改善策として,(1)ウェブ情報では,例えば寒さについて他所との気温差を示すような,訪問者が山の危険性をより理解しやすい情報を提供すること,(2)登山道の標識では,大雪山グレードを利用して色分けし,訪問者が登山道の難易度をわかりやすく気づくように情報を提供すること,(3)散策・登山開始直前に,当日の登山道と天気に関する情報を外国人訪問者にも提供すること,以上の三つを提案する。

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