比較生理生化学
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総説
タンボコオロギにおける光周期と温度による幼虫発育の制御機構
篠原 従道富岡 憲治
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2021 年 38 巻 1 号 p. 38-44

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抄録

昆虫の多くは休眠状態で越冬する。ある種の昆虫は幼虫で休眠し越冬するが,その分子機構はほとんど未解明である。われわれは,本州から九州にかけて広く生息し,幼虫越冬する2化性 のタンボコオロギ(Modicogryllus siamensis)を用いて幼虫休眠の機構を解析し,日長と温度が協調して幼虫休眠を制御することを明らかにした。すなわち,日長はJuvenile hormone(JH) 合成系を制御することで羽化までの脱皮回数を決定するが,成長速度は温度によりインスリン/TORシグナル伝達系を介して制御される。この両者の協調作用により,秋から冬にかけての短日と低温が成長速度を低下させて幼虫期を延長し,厳しい冬を乗り越えさせていると考えられる。最近,この日長による発育経過の決定機構にエピジェネティックな制御が関係する可能性が示唆されている。今後,次世代シーケンサーや遺伝子編集技術などを利用することで,このメカニズムの解明が進むと期待される。

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© 2021 日本比較生理生化学会
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