2025 年 42 巻 2 号 p. 103-113
ヒトの利き手に代表される「行動の左右性」は,多くの動物で記録されている。この左右性は一見奇妙かつ不可解であり,あまり生物学的意義があるようには見えない。しかし,行動の左右性は高い運動能力を発揮するのに必要で,個体の適応度を向上させると考えられている。一方で,左右性が生まれてからどのように獲得されるかという,発達過程に関する実験的検証はほぼ行われていなかった。ここでは,アフリカ・タンガニイカ湖に生息する鱗食性シクリッド科魚類Perissodus microlepis(以下,鱗食魚)が,動物の側方化の発達機構を解明する有益なモデルであることを概説する。鱗食魚は他の魚の鱗をはぎ取って食べるユニークな習性を示す。彼らは左右非対称な下顎骨をもち,それと対応する方向から獲物を襲う行動の左右性が知られている。最近の研究で,鱗食魚の左右性は遺伝的要因と摂食経験の相互作用に基づいて形作られることが示された。すなわち,鱗食魚の運動能力の左右差は先天的だが,餌魚のどちらの体側を襲うかは,捕食がより成功する優位な方向を選ぶ学習が発達初期に不可欠であった。さらに,下顎骨の左右差は体長とともに発達し,捕食成功と正の相関関係があることが見出された。鱗食魚の左右性研究が進むことで,動物の側方化の基盤となる神経機構や分子遺伝学的メカニズムが明らかになると期待される。