2014 年 65 巻 1 号 p. 95-103
本研究は,中枢移行性ACE 阻害剤 (ACEI) による記憶保持亢進の機序を解明することである.中枢移行性 ACEI (captopril),非中枢移行性ACEI (imidapril) および ARB(losartan)投与ラットでの脳内ペプチドの発現変化を HPLC法および TOF-MS法を用いて検索した.その結果,TOF-MS法では,captopril投与群で特異的に発現が亢進するペプチドを多数検出できたが, その多くは質量数3,000以下であった.なお,これらの質量数はすべて一価イオンとして検出されたことから,すべて物質固有の質量数を反映していた.検出した質量数は,ACE が分解する脳内ペプチド (LH-RH, substance P, β-neoendorphin, neuromedin B, LVV-hemorphin-7, amyloid β-protein)や insulin-regulated aminopeptidase (IRAP) の基質と考えられている vasopressin とは異なる値を示した.脳内には ACE や IRAP 以外にも活性中心にZn²⁺ を有するメタロプロテアーゼが存在することから,今回得られた多くの質量数は,キレート形成能を有する captopril により阻害されたメタロプロテアーゼの内在性基質の可能性がある.