弘前医学
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〈一般演題抄録〉死後房水グルコース濃度(PMAG:Post Mortem Aqueous humor Glucose)測定の臨床的意義
町田 光司町田 祐子長谷川 範幸高橋 識志寺田 明功中村 光男
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2019 年 69 巻 1-4 号 p. 207-

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抄録

平成 25 年の死因・身元調査法施行以来、死後画像診断(Ai)は急増しているが、血糖値の死後評価については困難な現状にある。今回、死後赤血球の解糖系の影響を受けにくい房水の採取を昨年 7 月末より病死・検死 105 例(糖尿病 23 例)に施行し、死後房水グルコース濃度(PMAG:Post Mortem Aqueous humor Glucose)を測定してその死後変化や、HbA1c、ケトン体等との関連を検討した。同一患者での死後房水糖値(PMAG)の経過を 3 例で検討したところ、1 例Hでは死後 19 分で PMAG187.5 g/ eから死後 9 時間で 67.5 g/e(死亡直後の 36%)まで低下し、2 例Hでは死後 40 分 で 105.5 g/eから死後 1 時間 40 分で 91.5 g/eへと低下はわずかであった。3 例H では死後 3 時間で 183.3 g/eから死後 6 時間で 140.1 g/e,9 時間で 123.5 g/e まで低下したが、死後 3 時間で採取して室温放懺した房水糖は死後 9 時間後で 174.7 g/eまでの低下に留まり、生体内から再採取した房水糖との間に 50 g/e以上の差 が認められた。尚、採取した死後房水糖の冷所(4℃)での変化を 7 例で検討したところ、 いずれも最長 6 日間にわたって安定であった。また、房水糖値(PMAG)と血中総ケトン体値との関連を 30 例について検討した結果、①PMAG 高値でケトン体高値の糖尿病性ケトアシドーシス例、②PMAG20 g/e以下でケトン体高値の低栄養(低血糖)例と、 ③高ケトン体の低体温症例 5 例中 3 例では PMAG が 100 g/e以上と高値を示した。また、PMAG による低血糖を検索した 3 例について、1 例H 71 オ女:食事をせずにインスリン注射後入浴し、死後 14 時間の PMAG は 115 g/eと高く、房水中インスリン値 1.1µU/mQであり、2 例H 35 オ男非糖尿病:死後12 時間のPMAG28.6 g/eにて当初房水糖低値と考え、他者によるインスリン注射等を疑ったものの、房水中インスリンは測定不能で他の原因による死亡と考えられた。3 例Hは 67 オ男:慢性石灰化膵炎(膵性糖尿病)で最近食べなくなり、妻の話では食べない日はインスリンを打たなかったという事であったが、PMAG13 g/eと低く、房水中インスリン 0.6µU/mL が検出され、血中総ケトン体は2010µmol/L と高く、GA26.2%、HbA1c7.4%から推察すると、最近食事を摂らないのにインスリン注射を施行したため低血糖となり、死因に関与したものと考えられた。このような PMAG 測定の報告は文献上見当たらず、Ai の補助診断として有用と考えられた。

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