埼玉県北足立郡伊奈町の伊奈氏屋敷跡遺跡から出土した縄文時代後・晩期の木材化石群および大型植物化石群の種類組成を明らかにした。二つの発掘区から得られた木材化石群では,コナラ属クヌギ節が優占し,50%以上をしめており,それにクリが伴っていた。三つの発掘区から得られた大型植物化石群では,コナラとクヌギ近似種をふくむコナラ属が木本では優占し,草本ではヒメピシをふくむヒシ属が優占した。それに2地区ではフジが,また1地区ではウキヤガラとサデクサが伴っていた。このように遺跡周辺の台地上にはコナラ属コナラ亜属とクリからなる落葉広葉樹林が成立し,低地の池沼は様々なヒシ属植物で覆われていた。コナラ属クヌギ節が優占する化石群が見いだされたのは,関東地方でははじめてであり,大宮台地中央部の特徴であるのかもしれない。