近年の岩宿時代研究は, 考古学的事実の把握を越えて, 解釈の領域に踏み込みつつある。ところがその実践のためには多分に学際的な検討が要求されるものの,必ずしもそのための背景が整っているとは考えられない。そこで本論では古植生研究を取り上げ,岩宿時代研究から見て検討が望まれる三点について,その必要性と問題点の提起を行った。第一点は植物質食料資源の質・量と分布に係わる課題である。食料となる植物種は必ずしも植生の優占種とはならないために,この検討のためには群落のより詳細な復元と共に意識的に食料たり得る植物の生育の可能性を追求する必要がある。第二点は森林内の下生えの桐密度の復元についてである。林内での見通しの程度は,当時の狩猟技術の質と相関する可能性が考えられ重要である。これまでも森林を構成する樹種の記載は中・高木から低木にまで及ぶが,それらの分布密度に言及した例を知らない。第三点は森林の被覆率である。これは狩猟技術とともに集落の設営場所の選定に影響すると考えられる。これも何が生育していたかに止まらず,森林景観や開地の有無とその広がりまで復元できることが望ましい。
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