抄録
縄文時代の木材加工用具である磨製石斧については,これまで生産地遺跡での製作技法や流通の問題などが扱われてきたが,石斧がどのように使われ,どのように管理され,生活のなかでどのくらいの数が必要だったのかということを明らかにするような研究はおこなわれてこなかった。2001年には,2000年からおこなっている使用実験に引き続き,クリ材を対象として膝柄磨製石斧の耐久性を調べ,その破損のメカニズムを解明することを柱に実験をおこなった。この年には特に,膝柄と直柄の石斧で作業をした場合に生じた使用痕の比較と,クリ材を加工した場合と広葉樹の雑木林を伐採した場合に生じる使用痕の比較に重点を置いて観察をおこなった。その結果,台部と握り部の角度が鋭角である膝柄の場合には,刃部の後角部分に損耗が集中するという特徴があげられるのに対し,直柄に装着して使用した磨製石斧では使用痕は後角から前角までに偏りなく見られることが明らかになった。また,中央から前角にかけての部分が集中的に使われている直柄資料も観察された。材の違いによる磨製石斧の損傷については,広葉樹雑木林の伐採に使用した磨製石斧には,クリ伐採時よりも全体としてすすんだ刃部の損耗が観察され,石斧で木を伐採する際には木材の強度が磨製石斧の使用痕の形成に影響を与えている可能性が指摘された。