抄録
最終氷期最盛期の北海道中・北部の植生については,ツンドラあるいは森林ツンドラの存否が古くから論議されている。その解明には,森林が未発達な地域における花粉化石群の特徴を明らかにしておくことが不可欠である。そのため,根室半島から約3 km離れた森林植被のないユルリ島の湿原からミズゴケのmoss polsterを採取し,花粉分析を行い,植生と表層花粉の関係を調べた。島外から飛来した花粉は平均34.8 (19.7–54.5) %であったが,このうち平均9割を高木花粉が占めた。高木花粉のうち道南部以遠からの飛来花粉は平均2割を占め,その大部分はPinus subgen. DiploxylonとCryptomeriaであった。ユルリ島では夏の季節風の影響を強く受けて花粉が飛来・堆積する。採取地点周囲の非森林域の拡がりが大きい場合には,遠距離飛来してくる花粉の散布源も広範囲にわたり,花粉出現率に多大の影響を与える。遠距離飛来花粉と現地性の非高木花粉それぞれの多寡の判別により非森林域を区別できる可能性を見いだした。