植生史研究
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東京都中央区日本橋一丁目遺跡出土木材から みた江戸の町屋における土木・建築用材の変遷とその背景
鈴木 伸哉能城 修一
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2008 年 16 巻 2 号 p. 57-72

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抄録

東京都中央区日本橋一丁目遺跡から出土した江戸時代初期から近代にいたる遺構構築材の樹種を同定し,江戸の町屋における土木・建築用材の変遷と,そこから類推される木材利用の様相を検討した。土蔵跡17 基,穴蔵23 基,下水木樋・枝樋86 基,井戸5 基の部材1934 点の樹種を検討した。その用材には江戸時代初期から幕末・近代にかけて変遷が認められ,とくに17 世紀中葉~後葉と18 世紀中葉~後葉に顕著であった。17 世紀中葉以前には,下水木樋・枝樋にサワラを中心とする様々な針葉樹と広葉樹が,また穴蔵には多様な針葉樹が用いられ,多元的で変異に富んだ木材の生産・流通や,都市建設と木材需要の急増による各地からの多様な木材の搬入を反映していた。17 世紀中葉以後には,下水木樋・枝樋にはアカマツを主体とする様々な針葉樹が用いられ,穴蔵には大径のアスナロ(ヒバ)が多用されるようになり,土蔵の基礎部分には,アカマツ,クリ,スギ,ツガ属や,様々な転用材が用いられていた。これは木材生産・流通網の整備による,用途に応じた用材選択の確立と,転用材を用いた経費削減を反映していた。18 世紀後葉以降になると,江戸近郊の植林材の生産・流通の拡大を反映し,下水木樋・枝樋,穴蔵,土蔵にはヒノキ科の針葉樹の減少と,アカマツ,スギ,カラマツ属の利用の拡大が認められた。こうした変遷の背景には,都市人口の増加と,明暦の大火(1657 年)をはじめとする火災の影響が推定された。

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© 2008 日本植生史学会
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