植生史研究
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福島県鬼沼における 木材化石と花粉化石からみた完新世後期の時空間的な植生分布と サワラ・アスナロ湿地林
箱﨑 真隆吉田 明弘木村 勝彦
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2009 年 17 巻 1 号 p. 3-12

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抄録
福島県猪苗代湖南部鬼沼地域から得られた堆積物の花粉分析と木材化石の同定,14C 年代測定の結果から,この地域周辺の約2500 年前以降の時空間的な植生分布について考察した。約2500 年前の扇状地では,ハンノキ属ハンノキ節が優占し,カツラやトネリコ属,サワグルミが伴う湿地林であった。周辺の山地では,コナラ属の森林が広がっていた。約1500 年前には,トネリコ属が扇状地で,ブナ属が周辺山地で増加した。その後,約1500 ~ 800 年前の間には,ハンノキ節に加え,サワラ・アスナロの針葉樹が混交する湿地林が扇状地に形成された。これらの木材化石の産出分布から,サワラは湿潤から乾燥した環境に,アスナロは湿潤な環境のみに立地していたことが明らかとなった。サワラは,木材化石の年輪数と根系形態から,少なくとも200 年間に渡って不安定な泥炭地上に生育していた。したがって,サワラ・アスナロはこの地域における湿地林の重要な構成種であり,西日本の低湿地埋没林で報告されるスギと同様に,湿地林の生態に新知見を得ることができた。また,花粉組成と木材化石の産出の比較から,東北地方南部ではスギが山地帯の植生要素であった可能性が高い。
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© 2009 日本植生史学会

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