植生史研究
Online ISSN : 2435-9238
Print ISSN : 0915-003X
日本列島における現生デンプン粒標本と日本考古学 研究への応用
残存デンプン粒の形態分類をめざして
渋谷 綾子
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ジャーナル オープンアクセス

2010 年 18 巻 1 号 p. 13-27

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抄録

残存デンプン分析は,遺跡土壌や遺物の表面からデンプン粒を検出し,過去の植生や人間の植物利用を解明する研究方法である。日本では近年本格的に取り組まれており,遺跡から検出された残存デンプン粒を同定するため,現生標本の作製も進められている。本研究は,残存デンプン分析の世界的な研究動向と日本における研究の実情を把握した上で,旧石器時代から弥生時代に利用されていた植物の種類を同定する上でその基礎となる現生植物のデンプン粒標本の形態を検討し,遺跡間の比較を行うための方法論的な議論を行った。旧石器時代から弥生時代の代表的な可食植物とされる17 種におけるデンプン粒を観察し分析したところ,サトイモ,ヤマノイモ,オニグルミ,ヒエ,イネ,キビ,アワのデンプン粒は他の植物より特徴的な形態をしており,コナラやクヌギなどの堅果類は形態上類似していることが判明した。さらに,デンプン粒の外形と大きさに着目し形態を分類すると,従来の残存デンプン分析でしばしば提示されてきた遺跡内での植物資源の利用モデルに対して,植物種の同定をより厳密に議論する必要があることが判明した。本研究の形態分類法は既存の考古学研究で証明が困難であった複数種類の植物加工を検証する方法として有効であり,現生標本との形態上の比較から残存デンプン粒の植物種を絞りこむことが可能であるため,遺跡での植物性食料の利用活動を検証する手段の1 つとなり得る。

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© 2010 日本植生史学会
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