植生史研究
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山形県小国町における昭和20 年代のクリ林利用の実態
門口 実代
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2011 年 18 巻 2 号 p. 45-56

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抄録
山形県西置賜郡小国町において,科学研究費補助金基盤研究(B)「縄文時代のクリ利用に関する考古学・民俗学・年輪年代学的研究」の一環として2007 年度から2008 年度にかけて実施した民俗調査の成果を中心に,クリ林に依拠した生活の実態を解明することが本稿の目的である。山村である当地域においては,昭和20(1945)年代まで集落の周囲にクリ林が存在し,クリ果実と材とを利用した生活が営まれ,生活のなかでのクリの重要性がきわめて高かった。こうした地域の事例に即してクリ林を利用した生活の実態を明らかにすることにより,トチノキなどの堅果類に比べてクリについて論じられることが少なかった民俗学の先行研究に対して新たな知見を示すことが可能になる。そこで,小国町北部の三つの集落を対象として,クリ林に依拠した生活を経験してきた複数の話者からの聞き取り調査を行った結果,昭和20(1945)年代当時,各集落で維持していたクリ林の分布範囲が特定され,クリ林には集落の「共有林」と,家を単位とする「私有林」という異なる所有形態が並存していたことが確認された。また,クリ林の利用は,「果実の利用」と「用材としての利用」を二つの柱とし,利用方法に応じて共有林と私有林との使い分けがなされていたことが明らかになった。さらに,クリ果実の利用と用材としての利用とを両立させるために,クリの木の成長段階に応じた相応の人為的な関与がなされていたことが認められた。そして,人為的な関与に支えられる形で,世代を越えてクリ林の利用を継承することを可能にする仕組みが形成されていた可能性が高いとの結論を得た。
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© 2011 日本植生史学会

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