抄録
日本・朝鮮半島・中国の新石器時代から青銅器時代の土器圧痕として検出される雑穀(アワ)資料の中には,野生種のエノコログサ属に似た,アワよりも細長い果実が含まれている。このような果実はアワ畠に生えていたエノコログサ属の雑草の果実が,アワ穂の収穫時に紛れ込んだものと考えられてきた。しかし,現生アワ穂の脱穀実験の結果,野生種のエノコログサ属型の細長い有粰果はアワの同じ穂内の果実の形態変異の一部であり,頴果が未成熟であることが多いこと,脱穀後の試料の中にもこのタイプの有粰果が含まれることが明らかになった。現生アワとエノコログサ属果実の形態比較に基づいて,これまで野生種のエノコログサ属と同定された圧痕を再検討した結果,その大部分がアワに同定された。脱穀・風選別実験後の,頴果を含む果実の状態とその産出割合に基づくと,アワ圧痕の母集団が脱穀後の生産物である可能性を示唆していた。