2017 年 26 巻 1 号 p. 27-40
土器の圧痕調査の進展に伴い,とくに九州地域の縄文時代を中心にカラスザンショウZanthoxylumailanthoides の種実が数多く発見されるようになった。カラスザンショウは今ではほとんど利用されない植物であるが,その人為的な出土状況や出土量の多さからみると,縄文時代~弥生時代の西日本地域の当時の代表的な照葉樹林構成種を示すばかりでなく,当時の人々によって果実が利用されていた状況を強く示唆している。その効用を探るため,カラスザンショウを中心にサンショウ属果実の成分分析をおこなった。カラスザンショウ種実に多く含まれていた精油成分のテルペン類,1,8- シネオールが貯蔵食物害虫の駆除に効力を発揮するため,これらが縄文時代の多数の遺跡から土器圧痕として発見されるコクゾウムシの防駆虫剤として利用された可能性を提示した。