三木茂博士が採取した島根県大田市白杯高津(標高220 m)の大型植物化石標本について,AMS14C 年代測定,大型植物化石の再同定,大型植物化石に付着していた堆積物を用いた花粉分析を行い,最終氷期最寒冷期の中国地方北西部の古植生を復元した。最終氷期最寒冷期の白杯高津の谷にはコメツガとトウヒが優占し,シラビソ,チョウセンゴヨウ,トウヒ属バラモミ節,ヒノキを含む針葉樹林が分布していた。最終氷期最寒冷期の中国地方の日本海側の低標高域には温帯性針葉樹林が分布していたと考えられてきたが,現在の亜高山帯域と共通の組成の亜高山帯針葉樹林が分布していたことが明らかになった。中国地方の最終氷期最寒冷期の花粉化石群資料を整理すると,低標高域でも斜面の多い場所には亜高山帯針葉樹が多く,高標高域でも湿原や緩斜面が広がる場所では温帯落葉広葉樹が分布するといった,標高差よりもむしろ後背地の地形の差で植生が異なっていた。博物館で保管されている大型植物化石を利用することで,高精度の年代値に裏付けられた詳細な古植生復元ができることが明らかになった。