植生史研究
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オオバネムノキAlbizia kalkora (Roxb.) Prain(マメ科ネムノキ亜科)の 本州中部更新統産小葉化石と,その歴史生物地理学的意味
伊藤 彩乃百原 新周 浙昆
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2017 年 26 巻 1 号 p. 3-31

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抄録
オオバネムノキAlbitzia kalkora (Roxb.) Prain(マメ科ネムノキ亜科)は,日本,中国,韓国,東南アジアからインドにかけて分布する落葉高木である。日本では九州南部の常緑広葉樹林域に分布が限られているが,中国大陸では落葉広葉樹林域にまで広く分布している。これまで日本,中国,韓国の中新統から近縁の化石種Albiziamiokalkora Hu et Chaney の化石が見つかっているが,鮮新・更新統の化石記録は九州に限られていた。今回,中部日本の下部更新統狭山層および中部更新統招提層から見つかった小葉のA. kalkora の化石を記載する。中国大陸に分布する類似の小葉形態の種と比較し,2 ~ 3 cm のサイズで,小葉の中部・基部が非対照,基部から2,3 本の2 次脈を分枝するという特徴で,オオバネムノキと他の種を区別した。これまでの化石記録と同様にオオバネムノキには常緑広葉樹が随伴することから,冬季の気温が温暖な時代に中部日本に分布拡大したと考えられる。日本では第四紀後半には南九州に分布が限定されるようになったが,おそらく氷期の寒冷な冬季の気候に適応した結果,中国大陸では落葉広葉樹林帯に分布拡大するようになったと考えられる。
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© 2017 日本植生史学会

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