植生史研究
Online ISSN : 2435-9238
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長野県梓川上流域における地形植生史
山地の斜面発達と植生分布構造
高岡 貞夫苅谷 愛彦
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2020 年 28 巻 2 号 p. 47-58

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抄録

長野県梓川上流の支流である玄文沢と善六沢の流域を対象に地形と植生の記載を行い,年輪試料の分析や14C 年代測定なども行ったうえで,過去数百年間の地形変化が流域の植生分布構造とどのような関係にあるのかを検討した。山腹斜面にはシラビソ林やコメツガ林が卓越するが,大規模地すべり地の滑落崖やその前面の移動体にカラマツ林やトウヒ林が形成されていた。沖積錐には土石流による攪乱で形成されたタニガワハンノキの一斉林と,ウラジロモミの優占する成熟林がみられるが,玄文沢沖積錐の扇頂部から扇央部にかけて細長く延びる大型の土石流ローブにはトウヒの優占する林が存在していた。この土石流ローブは,沖積錐上で土石流による攪乱が及ぶ範囲を制限し,沖積錐を地表攪乱が頻繁に起こる領域とそうでない領域とに分けている。このため,タニガワハンノキ林が形成されているのは,この土石流ローブより南側に限られていた。地形やその構成物の岩種などの特徴から,玄文沢上部でカラマツ林やトウヒ林の成立する大規模地すべり地の形成と沖積錐上の大型土石流ローブの形成は一連のものと考えられる。約370 ~ 350 年前に発生した大規模地すべりは,発生域となった山腹斜面と土砂の堆積域となった沖積錐のそれぞれにおいて,植生の立地形成や攪乱条件の変化をもたらすことで,現在の植生分布構造に影響を残していると考えられる。

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© 2020 日本植生史学会
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