抄録
ササゲ属アズキ亜属やダイズ属などのマメ類の種子は,近年土器圧痕調査の拡充に伴い検出事例が急速に増加しつつある。特に縄文時代前期・中期の中部高地・関東地方西部や縄文時代後期・晩期の九州地方では検出事例が多く,中部高地・関東地方西部で確立したマメ類の栽培技術が西日本へ波及した可能性も指摘されている。本稿では関西地方の縄文遺跡を対象とした土器圧痕調査や,種子圧痕・炭化種子などのマメ類試料の集成から,マメ類やその利用技術の関西地方への影響を検討した。土器圧痕の調査では縄文時代後期と晩期の土器にアズキ亜属やダイズ属の種子を認めた。ダイズ属の種子は中部高地・関東地方西部のマメ類の栽培化に伴い形態分化したとされる「大型楕円ダイズ型」と形状が類似する。マメ類の集成では縄文時代後期以降にアズキ亜属やダイズ属の種子圧痕・炭化種子の検出数がやや増加しつつあり,またアズキ亜属は大型の種子が後期・晩期に多く認められることが明らかとなった。このことから遅くとも縄文時代後期以降には,関西地方にマメ類そのものや,マメ類の利用技術が波及した可能性が考えられる。ただし,中部高地・関東地方西部や九州地方ではマメ類の検出事例が増加する時期に,植物の採集・管理栽培に用いられたとされる打製石斧が増加する傾向にあるが,関西地方の縄文遺跡からは同様の傾向が見出せていない。関西地方では,マメ類が波及したのちも植物利用の体系が大きく変化することはなかったと考える。