抄録
本論は東アジアの考古学におけるマメ類栽培研究について概観したものである。東アジアにおけるマメ類,例えばダイズ属やアズキ亜属の栽培は,中国・韓国・日本という中緯度地帯の多地域で,およそ7000 ~ 6000 年前に各地で開始されたようである。その根拠の一つに種子上に現れる栽培化徴候群の一つである種子サイズの大型化現象があるが,この現象が発露しない栽培行為の存在も主張されており,様々な角度から栽培行為の立証が行われている。現在では,議論の中心は,栽培行為の存在そのものより,その時期の評価に移行している。このような中,近年の土器圧痕調査の増加は,とくに日本列島内におけるマメ類利用の歴史を明らかにする上で大きな貢献を果たした。土器圧痕マメは種子の大型化の議論を可能にしたばかりでなく,マメ類の人共生植物としての地位を確固たるものにした。また,中国・韓国新石器文化と縄文文化の多量混入種実種と混和意図の違いは,穀物を軸としない縄文文化特有の植物栽培体系の存在と食用植物中のマメ類の重要性をうかがわせている。