抄録
縄文時代におけるマメ科種子の栽培化と利用をめぐっては異なる見解が示され,種子の大きさだけで栽培化を議論することに疑義もある。縄文時代のマメ科試料の古DNA 解析ができない現状においては,まずは縄文時代の物質文化との対比,さらには縄文時代の生業全体との対比を通じてマメ科利用を検討する必要がある。小論では,そのための基礎資料として,八ヶ岳南麓と周辺地域の縄文時代遺跡で出土した土器からレプリカ法で検出されたダイズ属とササゲ属圧痕の種子長の,土器型式ごとの変化を示した。その結果,ダイズ属は中期前葉に種子長が伸長し,ササゲ属はやや時期が遅れて伸長が認められ,マメ科種子の大きさ変化に関する既存の研究成果を追認するものとなった。特に種子長の最小値が伸長傾向にあることから,マメ科群落に人為的な影響・干渉が生じたことが示唆された。