抄録
日本の温帯落葉広葉樹林の代表的な樹種で,日本固有の落葉高木であるブナFagus crenata,イヌブナF. japonica の優占林の出現過程を明らかにするため,日本の鮮新・更新世のブナ属葉化石の形態と産出状況を検討した。東京都西部の狭山丘陵に分布する下部更新統狭山層から産出した約165 万年前の葉化石群集は,ブナ属の葉が全葉化石数の約40%と多数を占める。葉脈と葉縁の形態的特徴から判断するとブナ,イヌブナ,ムカシブナF. stuxbergiの3 種を含み,このうちブナの割合が高木性樹種の22.3%ともっとも高い。この葉化石群集は,ブナとイヌブナが優占する現在の日本のブナ林の存在を示す最も古い時代のものである。これらのブナ属の現在の分布から判断すると,関東堆積盆地周辺の山地では,低標高域にムカシブナやイヌブナが常緑広葉樹とともに分布し,それよりも高い標高域の落葉広葉樹林でブナがイヌブナとともに分布していたと推察された。