植生史研究
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別府湾堆積物の花粉および微粒炭分析に基づく後期完新世における照葉樹林の衰退過程
嶋田 美咲高原 光加 三千宣池原 研入野 智久山本 正伸山田 圭太郎竹村 恵二
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2022 年 32 巻 1 号 p. 15-25

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抄録
別府湾最深部から採取され,ウイグルマッチング法による高精度年代モデルの構築された堆積物コア(BP09-6コア)の花粉分析と微粒炭分析結果に基づき,別府湾集水域における後期完新世の植生変遷を解明し,さらに九州北部の歴史資料を参照することで,植生に対する人間活動の影響を明らかにした。花粉分析にあたっては,光学顕微鏡下では識別困難なクリ属,シイ属,オニガシ属花粉について,走査電子顕微鏡を用いて,同定,計数を行った。BC600 年からAD1200 年(弥生時代から平安時代)には,コナラ属アカガシ亜属の樹木やツブラジイの優勢な照葉樹林が分布していた。微粒炭量の急増が示すAD1200 年頃に起こった火事以降,照葉樹林は急激に衰退し,引き続き起こった火事や伐採,農耕などの人間活動の影響で,別府湾集水域では大半の森林が消失した。AD1200 年から江戸時代前半のAD1750 年頃までの期間に残った植生はマツ類,ナラ類,クリなどからなる二次林とイネ科,ヨモギ属,ワラビ属などの陽生草原であった。江戸時代後半のAD1750 年頃以降,荒廃した立地に植林や天然の更新によりマツ林が増加し,その後さらに造林が行われスギ人工林が広がった。
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© 2022 日本植生史学会

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