1997 年 5 巻 2 号 p. 53-65
北海道中部下川町の下川層群(中部中新統上部)から産出した珪化種子化石の内部構造を観察した。この珪化種子は,よく発達した3層の珠皮を持つことから,現在北米東部に1種類だけが分布するデコドン属(ミソハギ科)に同定され,新種Decodon mosanruensisとして記載された。他のデコドン属の化石種子や現生種の種子とともに,7つの形質を使って系統解析を行った結果,現生種のDecodon verticillatusに最も近縁であることがわかった。湖沼堆積物でスイショウ属,ハンノキ属,ゼンマイ属といった水湿地の植物とともに化石が産出することから,D. mosanruensisは湖の縁辺の湿地に生育していたと考えられる。化石記録から見てみると,北大西洋のチュリアンルートを通ってデコドン属は始新世後期までに北米西部からヨーロッパへと分布が移動し,漸新世から中新世にかけて東シベリアまで分布が広がった。D. mosanruensisは北米西部の種から分化してベーリング陸橋を通じて北日本に分布を拡大してきたと考えられる。