植生史研究
Online ISSN : 2435-9238
Print ISSN : 0915-003X
アカエゾマツの球果形態の変異
小西 彰一鈴木 三男
著者情報
ジャーナル オープンアクセス

1997 年 5 巻 2 号 p. 67-76

詳細
抄録

最終氷期のトウヒ属の球果化石は,その形態がよく似ているにもかかわらず,アカエゾマツ,ヤツガタケトウヒ,ヒメマツハダ,ヒメマツハダ近似種,トミザワトウヒなど,異なった分類群として記載されている。このような異なった同定がなされる原因を明らかにし,最終氷期に生育していたトウヒ属植物の実体を明らかにするための第一歩として,日本産のトウヒ属でもっとも分布域が広く,また形態の変異が大きいことが予想されるアカエゾマツについて,その球果形態の変異を調べた。試料はサハリン南部,北海道内各地,それに本州岩手県の早池峰山で17地点の51個体を1995~1996年に採集した。球果の長さ,幅,種鱗の長さ,幅,最大幅の位置,先端の波打ちの程度を調べた結果,l)アカエゾマツの球果は長さが37.7~77.3(平均57.5)mm,幅が14.5~22.1(平均18.3)mm’2)種鱗は長さが11.0~16.2(平均13.6)mm,幅が8.8~12.8(平均10.8)mm’3)種鱗の最大幅の位置は先端に近く扇形になるものから中央部付近で菱形になるものまで変異すること,4)種鱗先端の波打ちの程度はほとんど波打たないものから激しく波打つものまであることが分かった。この球果形態は個体内では均一で変異が少なく,同じ地域の個体間で大きく異なっているが,地域間の球果が形態上から区別できるようなことはないことが明らかになった。

著者関連情報
© 1997 日本植生史学会
前の記事 次の記事
feedback
Top