植生史研究
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図説日本列島植生史(安田喜憲・三好教夫編. 1998.朝倉書店)から引き出せる事実と吟味
塚田 松雄
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1999 年 7 巻 1 号 p. 17-38

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抄録

本書は,日本列島における第四紀末期,とくに過去15 万年間の植生史に焦点をおいて述べている。この期間にも,数種類の植物分類群が日本列島から消滅した。たとえば,サルスベリ属(おそらくサルスベリ)は,14.5~13 万年前の最終間氷期には東北地方南部以南に広く分布していたが,最終間氷期の終末には,日本列島のほとんどの地域から姿を消してしまった。またシベリアに分布の中心があるグイマツは,最終間氷期が終わる約12万年前から北海道に出現し,最終氷期最盛期には東北地方にまでその分布を広げたが,約8000 年前に日本列島から完全に消滅した。最終間氷期の暖温帯植物が激減したり消滅した後にも,顕著な植生変化が六回起きている。それは,酸素同位体期4の開始期に対比される約7 万年前,酸素同位体期2 の後半にあたる2.5 万年前,晩氷期の開始期の1.5 万年前,ベーリング期頃の1.25 万年前,後氷期の開始期の1.0 万年前,人類の森林破壊開始期の3000~150 年前であった。日本の固有種で,中間温帯の気候下に生育するスギは,酸素同位体期5の亜間氷期に北海道と九州を除く地域で優勢を極めた。最終氷期最盛期にはマツ科針葉樹林が日本列島全域を覆い,南西部ではカラマツを欠く温帯性針葉樹,中部地方以北では亜寒帯性針葉樹で構成されていた。後氷期初期には冷温帯落葉広葉樹林が発達したが,中期になると南西日本全域から関東地方の海岸帯まで照葉樹林がその分布域を広げた。このような植生が現在まで続くなか,後氷期後期には,中部地方と北海道の山岳地で亜高山性針葉樹林の下降がみられた。サルスベリは,後氷期中期にも局地的に分布していた可能性が高い。稲作農耕は九州で約3000 年前に始まり,時間漸移的に北に伝播し,東北地方には約1500 年前に到着した。焼畑農耕や稲栽培の集約化が進むと,農耕不能地にはアカマツ林が急速に拡大し,現在でも本州以南の丘陵や山地帯を特徴づけている。最後に本書の第II ─ 5 章「北陸地方の植生史」の内容を吟味した。この章はその核心を衝かずに冗長で,剽窃をし,粗雑な文章と論理的思考の欠如した段落で構成されていて読むに堪えない。次版では著者を代えて書き直す必要がある。

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© 1999 日本植生史学会
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