植生史研究
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Print ISSN : 0915-003X
年輪構造による遺跡出土ケヤキ材の伐採季節特定の試み
鈴木 三男
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1999 年 7 巻 1 号 p. 11-15

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抄録

遺跡から出土する木材で樹皮が保存されているものでは最外年輪がどの程度形成されているかを観察することにより,その樹木の伐採季節(死亡季節)を特定できる可能性がある.そこで,千葉県市原市の10 世紀以前の官道の盛り土を支持していたケヤキの杭材の最外年輪を観察した.この最外年輪の形成程度が現在の何時の季節のものに該当するかを調べるため,宮城県仙台市で調べられたケヤキの木材形成過程と比較した.その結果,仙台市で5 月9 日にサンプリングした木材と同じ形成程度であることが分かった.そして,両地点の植物季節のずれを補正するため,遺跡に程近い千葉市鎌取と仙台市の2地点でケヤキの開芽時期のずれを比較したところ,前者が後者より2週間早いことが分かった.これらの結果から,出土したケヤキ材は4 月25 日頃に伐採されたと推定された.これは暦日であるが,植物季節的にはケヤキの芽がすでに開き,盛んに葉が展開している時期に当たる.以上のことから,樹皮の保存された木材の最外年輪を現生樹木の木材形成過程と比較することにより,樹木を伐採した時期あるいはその樹木が死亡した時期をかなり正確に特定できることを示した.

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© 1999 日本植生史学会
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