抄録
小笠原諸島母島の石門地域には原植生とされる湿性高木林が残存している。この森林は戦前に択伐という人為的な攪乱を受けており,森林内にはオガサワラグワの伐根が散在している。この湿性高木林内に散在するオガサワラグワの伐根や生立木から得られる情報を基に,本研究では伐採される直前のオガサワラグワの生態的な特徴を検討した。湿性高木林内に散在していた伐根は木材構造や材質からすべてオガサワラグワに同定できた。伐根の分布から,伐採直前には石門地域ではオガサワラグワは上の段の湿性高木林内だけに分布し,石門山東向き斜面のモクタチバナ優占林には含まれていなかったことが明らかになった。また,オガサワラグワは湿性高木林の林冠層にのみ8.1~11.9個体/haの密度で含まれ,現在湿性高木林の林冠層の重要な構成種であるムニンエノキやセンダンとほぼ同等の個体数密度で分布していたと考えられた。これらのことから,オガサワラグワが伐採直前には湿性高木林の林冠層を構成する重要な樹種の一つであったと考えられた。