人と自然
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八重山民謡にみるヒトとカニのかかわり: 力二の種の特定と民俗動物学的背景
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1994 年 4 巻 p. 99-124

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抄録
八重山の島々には身近にいる小さな生物たちを主題に, ときにはユーモラスに, またときにはアイロニ カルに歌いあげた民謡が多い. 石垣市の西北10キロメートルほど離れた網張( アンパル) にひらけた広大 な干潟( カタバル) には, マングローブなどの植物が生い茂り,33 種の貝類,34 種のエビ・カニ類,3 種 のゴカイとユムシなどの底生動物相や様々な動物たちが息吹く. 四季を問わない生物の楽園は, 時には人 が相撲に興じ, 競馬を楽しみ, 貝などを採る場でもあった. ここに生息する生きものたちを題材にとり上 げ, 歌いあげる人々のエネルギーは, 干潮時に湾奥部まで開ける干潟の広大さ, そこにふり注ぐ太陽のま ばゆさを背景にした, 動植物資源の豊かさと決して無縁なものではない. このアンパルを舞台に展開される八重山の代表的な民謡である「網張ヌ目高蟹( アンパルヌミダガーマ) ユンタ」には, 15 種類ものカニが登場する. カニの生態, 形態や行動などを巧みに捉え, 擬人化したこの ユンタはいわば,「鳥獣戯画」の歌謡版といえるほどの傑作である. しかし, 登場する力二の種の生物学 的な特定に関して従来いくつかの混乱があった. そこで, カニの民俗学・動物行動学的な今回の調査結果 をもとにヒトとカニとのかかわりとその正体を探ってみた. 同時に, 石垣市からおよそ8 キロメートルほ ど東方を流れる宮良川においてカニの種と分布に関する調査も行った. これらの結果もとり入れながら, ユンタに登場するカニの種の解釈( 特定) に関する従来の見解にいくつかの異同と新知見を提示・論述し た.
© 1994 兵庫県立人と自然の博物館
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