抄録
日本語のアクセント史研究は,豊富な文献資料と多様な地理的変異を背景に発展してきながら,一般的な歴史言語学的研究と交渉することなく,ガラパゴス的な発展をしてきた側面がある。本稿では,そこに功罪両面があることを認めた上で,日本語アクセント史をより一般的な声調言語の歴史という文脈の中で説明する試みとして,日本語を restricted tone language (限局的声調言語)と見做し,平安期から現代に至る京都方言アクセントの史的変化を描く際に問題となる点について述べる。そして,それらの問題について考察を行うことが通言語的な声調(史)研究にどのような貢献を齎し得るのか考える。