抄録
日本漢語を対象としたアクセント史研究はこれまでほとんどなされてきていない。中国語原音が日本語アクセント体系にどう受容されるかということ,また形成されたアクセントが音韻史の俎上でどう変化したかという大きな課題が解決されていないのである。本稿では稿者がこれまで携わってきた漢語アクセント史研究に関わる借用語適応の話題を提供する。具体的には,①漢語のアクセントを音韻史のうえに捉える時の位相的観点,②漢語のアクセントを比較言語学的に捉えようとする研究,③漢語のアクセント型についての形成史研究,の 3 つの話題である。以上の話題を通じて,漢語アクセントの研究が,個別・普遍の両面の歴史言語研究にとって重要であることを示唆する。