保健師教育
Online ISSN : 2433-6890
特別記事
コロナ禍における本協議会の活動と今後の取り組み
岸 恵美子
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2021 年 5 巻 1 号 p. 2-6

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昨年の新型コロナウイルス感染症の発生により,教育現場では実習の受け入れが困難となるだけでなく,対面からオンライン授業への転換を求められた.会員校の皆さまは,教育の質を担保しつつどのように授業を展開していくのかに悩み,情報を共有しながら,工夫を重ね,何とか乗り切ることができたのではないだろうか.また,一方では,感染症対応で保健所が逼迫し保健師が疲弊する中で,国民から求められる保健所や保健師の役割や期待も明確になり,保健師教育の課題も見えてきたと思われる.そこで本稿では,会員校の皆様とともに行った本協議会での本年度の活動を振り返り,今後の協議会の取り組みを述べる.

I. 実習代替授業についての情報交換

2020年2月28日に文部科学省・厚生労働省(2020)より「新型コロナウイルス感染症の発生に伴う医療関係職種等の各学校,養成所及び養成施設等の対応について」が通達された.その中で「(3)学校養成所等にあっては,新型コロナウイルス感染症の影響により実習施設の受け入れの中止等により,実習施設の変更が必要となることが想定される.……中略……実習施設の変更を検討したにもかかわらず,実習施設の確保が困難である場合には,年度をまたいで実習を行って差し支えないこと.なお,これらの方法によってもなお実習施設等の代替が困難である場合,実状を踏まえ実習に代えて演習又は学内実習等を実施することにより,必要な知識及び技能を修得することとして差し支えないこと.」と示された.

つまり,実習受け入れ機関から実習中止とされた場合,他の実習施設を検討することや実習時期の延期を検討し,それが難しい場合は教育目標に照らして演習や学内実習等を行い,合理的な根拠を示す必要があるということになる.実習は全国で展開されるため,他の地域の保健所・保健センターに実習を依頼することは感染拡大防止の観点からもできない.結果的に,臨地での実習が1日もできなかったとしても,今回の状況では,合理的理由で演習等を読み替えることは可能ではあり,国家試験受験資格は得られるが,教育の質を担保しなければならないことに会員校の先生方は苦悩したと思われる.

本協議会には,どのように実習を展開していくべきか,代替としてどのような演習をすればよいのか,複数の会員校から戸惑いや不安,具体的な実習・演習方法についての質問があった.そのため2021年3月31日,本協議会では会員専用ページに,新型コロナウイルスに関する情報交換の場として電子掲示板を開設するに至った.

本協議会の教育課程委員会(2020)では,電子掲示板に投稿された施設実習の代替学習に関する実践例をデータとして収集し,「施設実習の代替学習に関する実践例」として報告書を作成した.データ収集期間は2020年4月30日~5月22日で,投稿された10校のデータを報告書にまとめた.

この報告書は,その後,令和2年6月22日に厚生労働省医政局看護課(2020)から都道府県衛生・医務主管部(課)あてに通達された「新型コロナウイルス感染症の発生に伴う看護師等養成所における臨地実習の取扱い等について」で,具体的な臨地実習の展開方法や事例等について参考とする内容として示された.

会員校より情報交換の場としての電子掲示板の開設,「施設実習の代替学習に関する実践例」として報告は大いに参考になったと会員校より評価され,他団体からも開設方法等の問い合わせがあった.本協議会では,電子掲示板の取り組みは,会員校のタイムリーな情報交換の場として有効であることが確認されたことから,今後も活用を促進していく必要があると考える.

II. 保健所支援チームの派遣協力

令和2年7月16日,厚生労働省健康局健康課長より,保健所支援チームの派遣について,「厚生労働省新型コロナウイルス感染症対策保健所支援(積極的疫学調査)チームの派遣について(協力依頼)」で文書による依頼があった.

新型コロナウイルス感染症の全国の感染状況等により,厚生労働省では地方公共団体からの要請に基づき,保健所支援(積極的疫学調査)チームを編成し派遣することになり,本協議会に取り組みの周知と,協力者の登録名簿作成の協力依頼があった.感染者数の増加が著しく,保健所の業務が逼迫するなかで,特に保健師の確保が喫緊の課題となっていることから,本協議会としては,派遣依頼に協力することは重要と考え,要請を承諾した.令和2年7月中に名簿を提出することになり,保健所が逼迫している状況,保健師が疲弊している状況から,本協議会として,会員校に周知し,名簿登録に協力してもらうことは重要と考え,早速一斉メール配信で協力を依頼した.多くの会員校の先生方に登録していただきましたこと,この場を借りて感謝申し上げます.

III. 緊急報告会の開催

保健所支援チームの派遣に協力する会員校の先生方からの情報を共有し,今後派遣協力する会員校の先生方がスムーズに活動できるよう緊急報告会「新型コロナウイルス感染症への保健所の対応の実際と課題―自治体支援に取り組んだ教員の経験から―」を2020年12月26日にZOOMによるオンラインで開催した.その後,YouTubeの限定公開で,2021年2月末までオンデマンド配信を行った.

新型コロナウイルス感染症はさらに拡大し,医療機関・保健所等は逼迫した状況に置かれており,保健所及び保健師の対応の現状,自治体支援を行った教員の経験から,具体的な支援方法について情報提供を受け,教育機関からの自治体支援のあり方について再考し,更なる活動につなげることを目的とした.

緊急報告会では,冒頭,加藤典子氏(厚生労働省健康局健康課保健指導室長)より,「全国における新型コロナウイルス感染症への保健所の対応の現状と課題」をお話いただいた.続いて保健所支援を経験した荒木田美香子氏(川崎市立看護短期大学 事務担当部長/教授)に「新型コロナウイルス感染症の自治体支援を経験して~全国での支援~」をテーマに,井口理氏(日本赤十字看護大学 准教授)に「新型コロナウイルス感染症の自治体支援を経験して~東京都での支援~」をテーマにお話いただいた.その後,指定発言として池戸啓子氏(新宿区保健所保健予防課保健相談係)に「新型コロナウイルス感染症への保健所の対応の現状と自治体支援を受け入れた経験から」をテーマに,現場の実態についてデータを基にお話いただいた.

年末の慌ただしい時期であったにもかかわらず,約160名の参加があり大変有意義な2時間となった.講師の話から,現場の逼迫した状況が理解でき,派遣協力の際の具体的な支援方法だけでなく,支援の手続きの確認や補償に関する情報交換ができ参考になったという声が多く聞かれた.今回の報告会で保健所支援に関する共通した認識が持て,保健所側にも負担をかけることなく,教員が協力できる体制の強化へとつながったと思われる.

講師の先生方には大変短い期間で準備をいただいたことに感謝する.オンラインでの実施は,タイムリーに開催できることにつながるため,今後は会員校のニーズに合った研修会や報告会,情報交換の場を,オンラインを活用して開催する必要があると考える.

IV. 感染症法改正に関する声明の公表

感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(以下,感染症法)は,過去の感染症対策への反省から,1897(明治30)年に制定された伝染病予防法を廃止して1999(平成11)年に制定された法律である.すなわち,結核やハンセン病の患者・感染者の強制的な隔離収容による著しい人権侵害,国民の差別を助長する政策を深く反省し,「患者等の人権尊重に配慮した入院手続きの整備」が感染症法の見直しの方向性の一つとして示された.

感染症法の前文には「(前略)我が国においては,過去にハンセン病,後天性免疫不全症候群等の感染症の患者等に対するいわれのない差別や偏見が存在したという事実を重く受け止め,これを教訓として今後に生かすことが必要である.このような感染症をめぐる状況の変化や感染症の患者等が置かれてきた状況を踏まえ,感染症の患者等の人権を尊重しつつ,これらの者に対する良質かつ適切な医療の提供を確保し,感染症に迅速かつ適確に対応することが求められている.」と示されている.さらに感染症法の基本理念(第2条)は「新感染症その他の感染症に迅速かつ適確に対応することができるよう,感染症の患者等が置かれている状況を深く認識し,これらの者の人権を尊重しつつ,総合的かつ計画的に推進されることを基本理念とする.」と記されている.

そのような中,感染症法等の改正が閣議決定された.改正法については,新型コロナウイルス感染症の患者が入院勧告や積極的疫学調査・検査を拒否した場合は,刑事罰及び罰則を科すことが,政府与野党の連絡協議会資料に示され,報道もされていた.そのため,本協議会(2021)では理事会で決議し,「感染症法改正に関する声明」を,2021年1月26日に本協議会ホームページに公表した.

強制的措置を伴う感染症対策は,歴史的に失敗を経験しており,強制的措置を恐れることで検査結果の隠ぺいや,感染状況が潜伏して,見えないところで拡大していく危険がある.さらに,市民への行政の強制措置は,感染者・患者への差別を助長することにもつながりかねない.さらに全国の保健師が,これまで丁寧に信頼関係を作りながら個別支援としても対策を行ってきたが,強制的措置に変わることで支援ではなくなり,公衆衛生として後退してしまうことが危惧される.そのため,人権を守り,差別をなくすことを重視し,質の高い保健師を育成する本協議会として,感染症法の改正法案について反対する声明文を発出した.

声明文では,患者・感染者の入院や検査・情報提供の要請に刑事罰・罰則を伴わせる条項を設けないことや,感染者の入院勧告・宿泊療養,自宅療養の要請を行う場合は,所得保障,同居家族等の高齢者や子どもなどケアを要する濃厚接触者が取り残される場合の緊急保護等の受け入れ体制を講じることなどである.また感染に伴う偏見・差別行為に対し,毅然とした規制を行うことを併せて求めた.

声明文は他団体からも同様に発出され,改正内容が刑事罰から行政罰に変更されたことは,一定の成果を得たと言える.しかし一方で,罰則規定があることは依然としてかわらないので,引き続き本協議会として注視していく必要がある.

V. 国家試験環境調査

2020年度の国家試験については,新型コロナウイルス感染症対策について,「令和2年度厚生労働省所管医療関係職種国家試験における新型コロナウイルス感染症対策について」が厚生労働省(2021)より示された.

令和2年度の国家試験については,新型コロナウイルス感染症対策を行ったうえで,それ以外の国家試験の科目,実施方法及び合格者の決定の方法は変更せずに実施すると示された.感染症対策としては,①受験者間の間隔を1 m以上確保する.②会場入口(原則施設外)にてサーモグラフィカメラによる検温を実施し,37.5度以上の者は再度検温し,37.5度以上あった場合は,迅速抗原検査を実施し,陽性反応が出た場合は,オンラインで医師が診察を行い,新型コロナウイルス感染症の診断がなされた場合は受験を認めない.それ以外の場合は,別室で受験させる.③濃厚接触者であっても,試験当日に無症状である等の条件を満たせば,別室での受験を認める.④試験当日に体調不良等により受験できなかった者については,これまでと同様に追加試験は行わない,などである.

受験生にとって例年にない体制の受験であり,追試験がないことや,当日体調不良により診察や検査,別室での受験の可能性があることは,より不安を高める要因になったと思われる.

本協議会の国家試験委員会では,保健師国家試験の試験環境及び運営に関する全国調査を例年実施している.学生が国家試験受験時に心おきなく自己の力を発揮できる環境づくりのために調査を行い,その結果を報告書として厚生労働省に提出し,改善を進言することで,次年度の受験環境・運営に反映できるよう取り組んでいる.

107回保健師国家試験においても同様に,試験環境・運営に関する調査を実施した.またその結果については,2月25日に厚生労働省に進言し報告書として提出した.調査対象は,本協議会会員校に在籍する受験生で調査期間は2021年2月12日~2021年2月17日であった.回答は1,062名と例年より多く得られた.今回の調査では,会場内の換気が不十分であったことや,出入口に人が集中し「密」状態になっていたこと,昼食時に大声で話していたり騒がしかった受験生がいたにもかかわらず注意もなかったこと,監督員がマスクを外したり,鼻が出た状態でマスクを着用していたこと,会場までの公共交通機関の増便がなく混雑して「密」状態になっていたことなどの意見があった.

国家試験については出題内容についても調査分析し,その結果を要望書として毎年厚生労働省に提出しているが,受験環境についても引き続き調査分析していく必要がある.

VI. その他の取り組み

1) 新型コロナウイルス関連情報共有サイトの開設

厚生労働省,文部科学省,関連団体,関連学会からの情報や保健師のための積極的疫学調査ガイドなど,国内外における新型コロナウイルス感染症に関する有益な情報を掲載し共有できるサイトを2020年3月23日にホームページに開設した.

2) 研修会のオンライン開催

第35回全国保健師教育機関協議会の教員研修会である「公衆衛生看護学のコアの継承と発展―指定規則改変によるカリキュラムを考える―」を会員校限定で無料のオンデマンド配信とした.第1部の8月研修は,2020年8月28日(金)~9月3日(木),再配信は2020年10月5日(月)~10月18日(日)である.第2部は2020年10月5日(月)~10月18日とした.

また2019年度のラダーI研修を受講した教員を対象とする,公衆衛生看護学を教授する教員〈ラダーI〉研修は,2020年8月26日(水)8月27日(木),2021年3月19日(金)にオンラインで実施した.

3) コロナ禍における実習に関する調査

「令和2(2020)年度 公衆衛生看護学実習に関するアンケート―令和1(2019)年度との比較―」を2020年2月末に実施した.令和2年度は,新型コロナウイルス感染症の感染拡大により,保健師教育においても実習をはじめ多大な影響があったため,令和2年度の公衆衛生看護学実習の実際を把握し,今後の課題を検討することを目的に実施した.結果については,別途報告する予定である.

4) 看護系大学の臨地実習の在り方に関する有識者会議への出席

文部科学省主催による「新型コロナウイルス感染症下における看護系大学の臨地実習の在り方に関する有識者会議」が開催され,第1回の会議が令和3年2月12日にオンラインで開催された(文部科学省,2021).

本会議は,新型コロナウイルス感染症下における学士課程の臨地実習の教育の質の維持及び効果的な方法について,意見を聴取し取りまとめることを目的としている.討議事項は,①新型コロナウイルス感染症下における学士課程の臨地実習代替の効果的な教育方法・工夫について,②新型コロナウイルス感染症下における学士課程の臨地実習の教育の質の維持について,③その他,大学における看護系人材養成に係る事項,についてである.本協議会からは鈴木美和副会長(三育大学教授)に委員として出席していただき,本協議会の意見を代表して述べてもらう.経過は理事会を通して報告する.

VII. 今後の保健師教育への課題

保健所の恒常的な人員体制強化として,新型コロナウイルス感染症への対応を踏まえ,保健所の恒常的な人員体制を強化するため,保健所において感染症対応業務に従事する保健師が現行の1.5倍となるよう,2年間で約900名(現行:約1,800名⇒令和4年度:約2,700名)増員することが示された(総務省自治財政局,2020).

今後保健師教育機関には,保健師の増員について,保健師資格をもつ卒業生を人材として確保することや,実践力のある保健師を育成し,できるだけ多く保健師として就職させることなどが期待されている.

大学における保健師教育課程が選択制になったことにより,2016年以降,保健師国家試験合格者数は半減しているが,保健師の需要と供給のバランスは,保健師としての就業人数から考えれば保たれている.但し,特に新卒で保健師として就職する者を増やす必要はある.

本協議会が行った保健師基礎教育調査(全国保健師教育機関協議会,2018)の結果では,健康危機管理能力に関わる到達度はむしろ低かった.健康危機発生時対応,回復期対策,予防対策に関する技術の獲得は,限られた実習体験だけでは困難であり,ケースメソッド手法やシミュレーション教育手法などを演習に組み入れることにより学修効果をあげることが必要である.

保健師助産師看護師指定規則の改正についての厚生労働省の報告書(厚生労働省,2019)は2019年10月に示された.「教育の基本的考え方」として,大規模災害や感染症等の健康危機管理能力の強化の必要性等が示されている.

コロナ禍でのオンライン授業においても,講義,演習,実習を効果的に組み合わせ,主体的に学生が学べる工夫をすること,疑似体験できるような教育の工夫をすることは可能である.多様な教育手法を用いて,学生がより能動的に学ぶ工夫をすることが今後教員に求められている.

VIII. 本協議会の課題と今後の取り組み

これまで述べたように,今回の新型コロナウイルス感染症への対応では,実習代替え授業をどのように行うのかの情報共有や,厚生労働省からの保健所支援の依頼への対応,感染症法改正への声明文の発出,緊急報告会の実施など,さまざまな取り組みを,三役が中心に実施してきた.今後このような取り組みを強化し,さらに保健師教育に必要な教材開発へとつなげるためにも,新たなプロジェクトが必要であるという意見が理事より出され,次年度以降の組織体制として,健康危機管理対策委員会(臨時委員会)を立ち上げることを計画している.

また次年度の秋季教員研修会では,「多様な状況下における保健師教育の質保証と向上に向けて(仮)」をテーマに,ライブ配信とオンデマンド配信で実施する予定である.保健師教育の質保証と向上に向けて,改めて新型コロナウイルス感染症対策を理解するとともに,感染防止対策を推進しながら取り組んだ講義,演習,実習の実際とICTを活用した今後の授業の発展に向けて意見交換を行う機会としたいと考えている.

保健師教育の変遷の背景には,少子高齢化の進展とともに急速な人口減少が予測されている中,社会的格差や健康格差の広がりとそれに伴う複雑で深刻な健康問題,頻発する災害,国際的な感染症対策などに対する社会的要請がある.すなわち保健師には,これらの社会状況によって引き起こされる多様で複雑な健康課題,それらに伴う不平等や生活の困難,地域の健康危機に対して,公衆衛生看護の高度な実践能力が期待されている.

保健師は,新感染症に迅速かつ適確に対応して国民の生命を守るとともに,患者や家族の人権を尊重し,地域から孤立しないように支援する必要がある.保健師教育に関わる教員は,感染症法成立の歴史的経緯を深く認識し,感染症改正の動きなど,新型コロナウイルス感染症の国の方針や対策について常に注力し,次の世代を担う保健師である学生に教育していくことは当然だが,社会にも働きかけることが重要な責務であると考える.

今後の社会情勢の変化と国民のニーズに十分応えることができ,未知の脅威に立ち向かうことができる保健師を国民に理解してもらうためにも,保健師の技術についての検討も引き続き進めていきたい.

最後になりますが,これからも本協議会は,保健師の実践能力の向上を目指して,関連する団体,教育機関,地域と連携・協働して教育に関わるさまざまな活動を推進していきますので,会員校の皆様にはご支援・ご協力をいただきますようお願いいたします.

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