保健師教育
Online ISSN : 2433-6890
事業報告
ラダーI研修に対するニーズ調査から見た今後の方向性の検討
研修委員会都筑 千景長澤 ゆかり荒木田 美香子赤星 琴美石井 美由紀川南 公代北岡 英子野尻 由香藤本 優子三橋 美和鈴木 美和山口 忍
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2021 年 5 巻 1 号 p. 22-26

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I. はじめに

研修委員会では2017年から教員ラダーI研修を開催し,現在4年目を迎えている.1期生2017–2018年度,2期生2019–2020年度で,2020年度末で受講修了生が88人になる予定である.2期とも申込者が定員をオーバーした状況があり,会員校へのラダーI研修の要望は高いと考える.また,受講生からの評価は研修時のアンケートから見ると良好であり,“教育”について学ぶことへのニーズの高さがうかがえる.ラダーI研修は研修委員会が企画・実施しているが,持続可能な研修体制を維持するためには,会員校のラダーI研修に対するニーズと研修の評価について把握し,今後の研修を効率的・効果的に実施していく必要がある.また,「実習指導および授業計画の立案・実施・評価について実践(OJT)を通じて学ぶ」を研修のねらいとしていることから,受講生のOJTの実施状況についても把握し,ラダーI研修の今後の計画に生かすことも重要である.そこで今回,会員校に対してラダーI研修ニーズ調査を実施し,今後の研修のあり方を検討したので報告する.

II. 調査方法

1)対象:2020年6月現在で全国保健師教育機関協議会に加入している219校

2)調査方法:Google フォームを用い無記名Web調査を2020年6月~9月に実施した.回答は会員校の責任者に依頼した.

3)調査内容:①ラダーI研修に該当する教員(修士レベル・必要経験年数5年程度・職位は問わない)の有無,いる場合には該当する人数,②現在までにラダーI研修受講をした教員がいる会員校に対し,ラダーI研修後のOJT実施の有無とその方法,研修の効果について,③受講した本人と責任者からの研修についての意見(自由記述),④まだ受講生がいない会員校に対して今後の研修受講予定の有無,⑤すべての会員校に対してラダーI研修の必要性とその理由,⑥自由意見

4)分析:すべての項目について記述集計を算出した.自由記述については,類似する内容にまとめた.

5)調査はすべて無記名で行い,匿名性を保証した.

III. 結果

回答は135校から得られ,回答率は61.6%であり,すべての回答を分析した(有効回答率61.6%).

①ラダー研修Iに該当する教員の有無と該当教員数

ラダーI研修に該当する教員がいる会員校は86校であり(図1),該当教員数が1人57校,2人22校,3人以上7校であった(図2).また,そのうち准教授がいると回答したのは10校であった(図3).該当する教員がいると回答した会員校で,すべて受講または受講中が19校,一部が受講14校,どの教員も受講していないが53校であった(図4).

図1 

ラダーI研修に該当する教員はいるか n=135

図2 

該当する教員数 n=86

図3 

該当する教員のうち准教授以上はいるか n=86

図4 

該当する教員はラダーI研修を受講したか n=86

②研修を受講した会員校のOJTの実施状況と評価

既に受講した教員がいる33校のうち,受講後にOJTを行ったのが19校であり,半数以上を占めていた(図5).OJTを実施した会員校の実施内容について,表1に示した.研修の成果を活用して授業・実習計画を立案し教育に活用,進め方を一緒に検討し振り返りやプレゼンテーションを行ったりなど,領域や講座で共有し,上司の指導や助言のもとで教育に反映させたりしていた.OJTを行った会員校では,すべての会員校で研修が効果的だったと回答した(図6).

図5 

研修に合わせてOJTを行ったか n=33

表1  OJTで実施した内容 n=15
・研修事後報告と業務への反映の計画発表
・研修のフォーマットを活用して授業計画を立案,実施,評価に活用
・研修後の振り返りをもとに授業の一部を担当
・研修で使った授業評価の指標を用いて自己他者評価を実施
・作成した教材のフィードバック
・相談,授業見学,指導案作りへの関わり
・実際の授業計画立案,実施,評価への助言
・講義内容講義の進め方などを一緒に検討
・共同研究の実施,研究のサポート
・共有と日々振り返り 指導案指導
・領域での研修報告
・講座FDにて授業単元の企画実施のプレゼンを実施
・担当科目や実習指導に反映した指導計画立案・評価の実践により学生の到達状況が向上
・指導案について助言指導.実施後に自己評価及び他教員からのコメントを共有
図6 

ラダーI研修は効果的であったと思うか(OJTを行った会員校) n=19

OJTを行わなかった会員校は14校であり,行わなかった理由として,日ごろからOJTを実施しているため,本人が主体的に実施し支援を必要としていないという理由や,時間が取れない,研修内容を把握できていないなどの職場の事情による理由をあげた会員校もあった(表2).OJTを行わなかった会員校で研修が効果的と回答したのは10校,2校が効果的でないと回答したが,その理由は個人的要因が大きい,判断できない,であった(図7).

表2  OJTを行わなかった理由 n=12
・研修にかかわらず日頃からOJTを実施しているため
・本人が主体的に課題に取り組んでおり支援を必要としていない
・シラバスの相談などは行っており改めて実施していない
・これから実施予定
・まだ研修内容自体を把握できていない
・振り返りの時間が取れない
・前任校で受講しており把握していない
・受講した教員が消極的
図7 

研修は効果的であったと思うか(OJTを行っていない会員校) n=12

③受講生自身と責任者からの研修に対する意見

研修を受講した受講生は,充実していた,有意義であった,との意見が多かった.具体的には,勉強になった,仲間ができた,交流できたことが多くあがっており,特に同じラダーの教員との議論ができネットワークができたことをあげた受講生も多かった.否定的な評価としては,具体的な内容が聞きたかった,経験に差があった,オンラインになって残念,であった(表3).

表3  受講した本人は研修についてどう話していたか n=30
・有意義であった,充実していた
・勉強になった,学習できてよかった
・交流できた,仲間ができた,情報交換できた
・同年代との議論ができた,またネットワークができた
・「教える」ことの基本が理解できた
・これまで深く考えていなかったことを自分ごとと考えられるようになった
・教育活動に役立った
・具体的な内容が聞きたかった
・経験に差があった
・オンラインになったのが残念だった
・そのような話はできていない

責任者からは,研修が効果的で有難いという意見が多く,研修内容についてもよい評価であった.また,本人と同様,受講生同士の交流やネットワークができたことで,刺激や交流につながっていることを肯定的に評価していた.その一方で,研修に参加させることが難しい,自校での実践のサポートや助言に困難を抱えている状況もあがっていた(表4).

表4  責任者から見て研修はどうだったか n=31
・できるだけ初期に受けることが必要で効果的
・授業の質の向上につなげることができ非常に有効,有難い
・体系的に教育を学べた,内容が工夫されていた
・基本的な枠組みを学び,実践する方法で本人にとって一貫性があった
・意欲的に取り組む姿勢につながった
・同世代の仲間やネットワークができ,視野の広がり,刺激,交流につながっている
・到達度が様々,研修の効果が不明
・自校での実施は難しいので研修の継続を希望
・研修に行かせるのに配慮が必要だった
・OJTと並行してサポートするのが難しかった
・助言することができるかと自分を振り返り,責任者の役割を痛感した

④現時点で研修を受講した教員がいない会員校の受講予定について

まだ受講した教員がいない会員校55校のうち,受講予定があると回答したのは48校であった.そのうち,次回の予定があるのは17校,いずれ受講の予定があるのは31校であった(図8).受講させる予定がない3校の理由は,研修時期が繁忙期である.本人の意思に任せる.OJTで対応する,であった.

図8 

ラダーI研修を受講させる予定はあるか n=51

⑤今後のラダーI研修の必要性について

今後もラダーI研修の開催が必要と回答した会員校は133校であった(図9).必要はないと回答した2校の理由は,判断ができない,学部内で教育すべきことであった.

図9 

ラダーI研修の開催が必要と思うか n=135

⑥自由意見

研修への自由意見としては,研修の良い点として,必要である,システマティックなプログラムである,仕事の質が向上する,全国ネットワークができたことなどがあげられた.一方,研修のグループワークの進め方や難しさについての意見があった.また,ラダーI研修以外の様々な研修の要望や,研修の参加基準についての意見,研修実施組織に対する意見があった(表5).

表5  自由意見
・必要なので継続してほしい
・システマティックなプログラムでよい
・仕事の質の向上につながる
・グループワークで全国のネットワークつながりができたことがよかった
・職階別のグループ学習がよい
・オンライン・リモートで受講できれば参加しやすい
・ファシリテーターがクループワークに入った方が効果的と思う
・研修を受けたその日のグループワークは難しさがあった
・ラダーIの1年目から2年目の履修のしやすさを希望
・修士課程を修了していない教員への研修を希望
・公衆衛生看護教育経験の浅い教員向けの研修を希望
・中堅期・責任者の研修を希望
・教育現場では新任教員への支援が手薄になるためこの研修は必要である
・受講時期のタイミングがあり,ラダーIの該当基準を設けない方がよい
・学習機会を広げるために教育経験年数の基準を設けない方がよい
・研修を実施する組織を作った方がよい,研修委員の労力が大変

IV. 考察

1. 会員校におけるラダーI研修のニーズ

本調査において,ラダーI研修の基準に該当する教員がいる会員校は86校であり,1校で複数の該当者がいる会員校も複数あったことから,今後の受講可能性のある教員は,調査時点において計算上122人以上いることが分かった.保健師教育機関においては教員経験の浅い教員がまだまだ多く,ラダーI研修の潜在的ニーズは大きいと思われる.しかし,次回の受講予定は17校と2割にも満たない結果であり,該当する教員が確実に研修参加につながるかといえばそうでない状況もうかがえた.該当する教員はいるものの受講予定がない会員校があげた理由として,自校でのOJTでの対応があり,本協議会の研修に頼らなくても,教員の資質向上に向けた対応をされていると推察された.一方,繁忙期と研修時期が重なることや,本人の意思に任せるという理由をあげている会員校もあり,学校として積極的に教員の能力向上に取り組めていない現状もあった.教員の資質向上への取り組みは,学習意欲が高い若手教員(土肥ら,2012)に任せるだけでなく,学校全体の教育の質を向上に向けて組織として取り組むことが必要である.また,看護大学等の教育機関の教員は,慢性的な人材不足を背景に,業務に余裕がなく研修に派遣できないという現状が本調査結果からもうかがわれた.今後さらに学校として,計画的に教員の資質向上に取り組むことが必要であると考えられた.

2. 受講対象者

受講対象基準としては,教員経験が5年程度で職位を問わないとしているが,准教授が該当する会員校は10校あり,現状の参加基準の場合,研修場面に助手,助教,講師,准教授という職位の教員が混在することになる.看護教員は,職位と教員の経験年数が連動する場合ばかりではないことから,准教授以上でも教員経験年数が5年に満たない事例は多いと考えられる.しかし,看護教員の「教育実践能力」において,教育経験5年以下の教員はそれ以上の経験年数の教員より自己評価が低い(小林ら,2015)と言われており,5年の経験で研修対象者を区切る整合性はあると考える.また,初任期の研修が重要との指摘(厚生労働省,2010)もあり,初期に受けることが効果的との意見もあったことから,キャリアラダーI相当である初任期のグループには一定の基準が必要であろう.職位については限定していないが,助教,講師の参加が実際には多く,准教授が参加しにくい状況はあると考えられる.また,准教授は大学運営や教育・実習の中心を担当し,時間的制約のため研修に参加することが難しい場合もあり,時期を見ているうちに5年が経過することもあると考えられる.そのため,ラダーI研修の経験年数に関する参加基準については,もう少し柔軟に考えていくことが必要かもしれない.

3. ラダーI研修のグループ編成

教員として同じ立場で交流を重ねることの意義(前田ら,2016)が指摘されている.本調査結果から,ラダーIに該当する教員が学内に複数いるのは半数以下であるため,学内におけるOJTの他,学外で同じ立場の教員が交流する機会を持つことが必要と言える.ラダーI研修では,職階別のグループとしてメンバーを固定し,グループワークを中心に行っているため,仲間ができて交流が広がったことを評価した受講生が多かった.実際の研修においては,参加状況によって,一部グループ編成を変更せざるを得なかったこともあり,できる限りグループメンバーを変えずにグループ活動ができるような配慮が必要である.

4. OJTによる成果の拡大

研修のねらいにも記載されているOJTを行ったと回答したのはおよそ半数であった.OJTを実施した会員校はすべて研修が効果的であったと回答しており,実際の教育実践に活用してこそ研修での学びが活用できるといえよう.研修後のOJTは研修の成果をより向上させる有用な手段であり,積極的に実施することができるよう,研修委員会の立場から参加者に呼びかけていくことが必要である.また,多忙のため参加できない教員に対し,学習内容を共有する方法としては,全保教のブロック活動の活用が有用と考える.同じブロックの会員校で研修に出席した教員が,他校も含めた研修報告会を開催しブロック間で学習内容を共有し合うことで,お互いの資質の向上につながり,ラダーI研修とは異なる新たな仲間づくりになると考える.OJTの実施やブロック活動の活用については,本協議会の理事会等の機会を通じて,その必要性をブロック理事に広く周知し,それらを継続して行っていくことも必要であろう.

V. おわりに

本調査を通じ,ラダーI研修に関する評価は良好であり,効果的,有用であるとの意見が多かったことから,本協議会として継続していく必要性があることが分かった.ラダーI研修は,教員として必要な授業・実習に向けた基礎的な知識の教授であり,初任者である教員の質は,学生の学びに直結すると考えられるため,その意義は大きい.そのため,ラダーI研修の継続的な実施と研修の質の向上は,研修委員会として重要な課題であると考える.そのほか,例えば修士の学位がない教員や中堅期,責任者研修などの要望があったが,教員としての資質の向上を,すべて本協議会の研修が担うことには議論の余地がある.本協議会以外にも大学を対象とした協議会や各種団体が教員向けの研修の機会を提供しており,保健師を目指す学生を教育する教育機関の団体として,本協議会がどのような研修を開催する必要があるのかは厳選していく必要がある.研修委員会としては,夏季研修も合わせて企画・実施しており,これらをラダーII以上の教員研修と位置付けている.会員校には,本協議会の研修や自校でのOJT,他団体の研修と合わせて自らの質向上の方策を検討していくことも必要と考える.研修委員会での研修の企画・実施については一定の限界があることから,持続可能な研修の実施に向けて一部委託による実施なども含め,今後具体的な検討が必要である.

謝辞

アンケートにご協力いただきました会員校の皆様に感謝申し上げます.

文献
  •  土肥 美子, 細田 泰子, 星 和美(2012):看護系大学に所属する若手教員の学習ニーズとその関連要因,大阪府立大学看護学部紀要,18(1), 33–44.
  •  小林 睦, 竹尾 惠子, 七田 惠子(2015):看護教員としての能力とその自己評価に関する研究,佐久大学看護研究雑誌,7(1), 45–54.
  • 厚生労働省(2010):今後の看護教員のあり方に関する検討会報告書,https://www.mhlw.go.jp/shingi/2010/02/dl/s0217-7b.pdf(検索日:2021年2月25日)
  •  前田 陽子, 柏崎 純子, 八木 絵里子(2016):若手教員の教育力向上を目的とした助教助手の会の活動評価,日本看護学会論文集:看護教育(1347–8265),46, 127–130.
 
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