保健師教育
Online ISSN : 2433-6890
事業報告
2021年度教育体制委員会事業報告大学院化を予定する会員校のためのオンライン交流会
教育体制委員会西出 りつ子佐藤 千賀子堀井 節子和泉 京子白石 知子菅原 京子水谷 真由美
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2022 年 6 巻 1 号 p. 33-36

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I. はじめに

全国保健師教育機関協議会(以下,「全保教」)の教育体制委員会では,2021年度も,大学院と大学専攻科などを含む上乗せ教育により指定規則に定める単位の読み替えなしの保健師教育課程推進を活動方針の一つとしている.この方針に基づく2021年度当初事業計画は,8月夏季教員研修会の分科会「大学院の設置に至るプロセスとカリキュラムの実際」のみであった.しかし,8月理事会において,大学院教育を始めた(または大学院教育への変更が決まった)教育課程の教員がもつ不安や疑問を払拭する必要があるとのご意見をいただいた.

一方,保健師助産師看護師学校養成所指定規則の改正により,看護学教育を見直して新しいカリキュラムを2022年度入学者から適用する教育機関が多い.この変革期に,保健師教育のあり方をも再検討する教育機関が増えるのは当然の成り行きである.それに伴い,保健師課程大学院化が正式に決まった教育機関では,担当教員はその準備を具体的に担うからこそ,様々な疑問や心配をもつものと推察する.本委員会が夏季教員研修会分科会を振り返ったところ,事後アンケートの参加目的欄に「先発校の経験を聞きたかった」や「不安や悩みを話し合いたかった」などの記述がみられた.また,2020年度に本委員会が緊急開催した「大学院化を予定している会員校の意見交換会」は,大学院化推進に向け,大学院化への準備を始めた会員校向けにより具体的内容を情報交換できる企画が必要ではないかとの着想から始まった.これらより,本委員会は大学院化を担当する教員の疑問や不安を低減する身近な活動が必要であると判断,昨年度の経験から実行可能と考え,9月に交流会の開催準備に入った.そして12月,大学院化という共通の目標をもつ会員校同士の気軽な交流の場,情報や意見を交換できる場として,大学院化を予定する会員校を対象にオンライン交流会を開催した.

本稿では,上乗せ教育課程推進の今後の方策を検討するための基礎資料として,本事業の概要について報告する.

II. オンライン交流会事業の概要

企画した本事業名,目的,実施方法などは,以下のとおりであった.

1.事業:大学院化を予定する会員校のためのオンライン交流会

2.目的

大学院化を予定する会員校同士の気軽な交流の場,情報や意見を交換できる場を設け,大学院化の準備を担う教員のもつ疑問の解消と不安の軽減を図る.

3.実施日時:2021年12月11日(土)13時00分~14時30分

4.実施方法

周知方法は,全保教会員校向けメールマガジン配信2回(9月30日,11月30日)と各ブロック理事も委員である11月理事会における報告であった.オンラインによる事前申し込み制とし,オンライン開催の方式をとった.なお,全保教が作成した「保健師教育における大学院カリキュラムモデル(全保教版2020)」「保健師教育大学院化に向けたステップバイステップ支援Q&A集2020」を資料とし,申込者にメールにより事前配付した.

5.参加対象

本事業の対象を「2022年度あるいはその後に大学院化を予定する会員校の教員」とし,保健師教育について意思決定が可能な職位の⽅の参加を呼びかけた.

III. 交流会開催結果

1. 参加者の概要

参加申し込み者数は8名であったが,業務による欠席が1名あり,当日参加者は会員校5校から計7名,大学院教育を担う情報提供者2名,全保教の三役と運営担当委員7名を含む計18名であった.大学院化を予定する参加者7名の所属はすべて学部教育選択制の保健師教育課程であり,大学院化の時期別に2023年度1校,2025年度1校,検討中3校であった.なお,情報提供者は,大西真由美氏(長崎大学大学院教授)と麻原きよみ氏(聖路加国際大学大学院教授)であり,和泉京子委員(武庫川女子大学大学院教授)も大学院教育を担う立場から一部発言を求められた.

2. 交流会の構成

運営する委員も含めた参加者数が20名未満であったため,メインルーム1室による交流とした.交流会の趣旨説明の後,自己紹介(参加理由と話題にしたい内容を含む)を皮切りに交流を開始した.参加者から要望のあったテーマについて,大西氏,麻原氏から情報提供をしていただき,追加質問を入れながら全員で話し合った.最後に,オンラインによる事後アンケートを依頼した.

3. 参加者からの要望テーマとその内容

参加申し込み時に話し合いたい内容を調査し,当日の自己紹介の際にも聞き取った.これらは,①文部科学省への申請に向けた具体的内容,②カリキュラムの組み立て,③大学院化のメリット,の3テーマに分類できた.説明内容や経験談,発言について下記にまとめた.

1) 文部科学省への申請(立ち上げ)に向けた具体的内容

(1) 学部教育との関係性

学部教育と並行して大学院教育を行う場合,学部保健師課程を閉じてから大学院教育を開始する場合に比べ,担当教員の負担が大きい.学部と大学院の教育の重複期間には,学部教育担当者と大学院教育担当者を明確にわけるよう文部科学省から指導を受けた.申請時に,演習室を学部用と大学院用に分けて報告する必要があった(同じ空間を切り分けて報告).

公衆衛生看護学分野の教員は,大学院保健師課程科目と学部教育に関わることになるが,教員審査の結果により大学院の研究指導と教授科目が決まるため,大学院教育への関わり方と学部教育を担える範囲に違いが生じる場合がある.

(2) 教員数などマンパワーの確保

立ち上げの際は公衆衛生看護学の教授・准教授,在宅看護学の教授の3名で申請した.その後に大学院公衆衛生看護学4名,在宅看護学1名,養護教諭教育1名となり,全員が在宅看護学実習の指導を行っている.学部の保健師課程がなくなった際に,1名減員となった.

また,学生定員純増により,教員数も増加した大学の話もなされた.参加者からは,開設する際に教員の定員増は考えられないとの発言がある一方,学部教育との重複期間には非常勤教員の確保により対応すると組織が方針を示したとの発言もみられた.

学生定員が多い場合,非常勤の助教やTAを活用する.社会人経験のある大学院生は学部進学者と異なり,自立して動ける.演習・実習の14単位には大変さより大学院教育の楽しさ,これまでやりたいと思っていたことができるというよさがある.また,修士論文(8単位)ではなく,課題研究(2単位)として科目担当者が単位を認定,助教も博士の学位をもつため教員全員が研究指導可能であり,同時に修士論文コースの学生指導も行っている.高度実践の指導者Doctor of Nursing Practice(DNP)も養成しており,エビデンスをいかに現場に実装するかが,上級実践者の育成において重要である.実践家の博士号であるため,evidence based practice(EBP)としていかにエビデンスを実装させるか,実装研究が重要である.

大学院開設の新規申請であり,教員審査を受審した.助教も指定規則分の教育が可能と判定されたため大学院教育に関わることが可能との大学がある反面,学内での基準に達するか否かにより助教が大学院における研究指導や科目教授を担当できない大学もみられた.

(3) 大学院化の推進要因

助産師課程を先に大学院化した場合,助産師の教員が保健師課程大学院化の味方となり,支援してくれる.大学院化に追い風となる時代の流れや支援者の存在は大きい.大学院化を可能にした要因には,大学トップの先見性,方針,組織の変革・改組,大学の理念と整合した主張,大学のパイオニア志向が挙げられる.保健師教育担当教員にとって,継続してあらゆるところで伝える,タイミングを逃さない,日頃から構想を練っておく,これらが重要である.

参加者から,将来的に大学院化を推進できるように県内保健師などに必要性の説明を行い,大学院化を受け入れる考え方を広めることにより準備を進めているとの発言があった.

2) カリキュラムの組み立て

(1) 大学院の科目の位置づけと単位

指定規則改正が予定されていたため最初から保健師教育31単位,その単位に含まない共通科目に研究方法と疫学保健統計学をおき,ヘルスプロモーション特論を公衆衛生看護学の専門科目に位置付けた.

実習は6単位(地方自治体か産業において計画から評価,提案までの内容)の課程と5単位の課程があり,研究に時間を費やさないと教育が成り立たず,厳しい現状があるとの発言もみられた.

研究は10単位,論文を課している.しかし,大学設置主体の違いや大学の歴史的背景により,修士論文とするか否か,学生定員の認可人数など,文部科学省から求められる内容が異なるかもしれない.

(2) 実習フィールドの確保と具体的な学習内容

近隣大学が先行して大学院教育を行っているため,実習施設側に大学院教育を苦労なく受け入れてもらえた.産業保健については演習として現場で学習させてもらい,また公衆衛生看護学実習4単位の中に産業保健と学校保健の内容を入れている.

産業・学校保健(計2単位)を演習扱いとし,卒業生のいる施設や学部教育の頃から関わりのある施設などに依頼している.指定規則5単位分の実習施設を文部科学省に届け出ており,自治体(4単位)と訪問看護ステーション,農村部などにおける地域アセスメントも実施している.

どのような学生を育てたいかにより,1年次と2年次の実習内容が異なる.アウトリーチを基盤とする活動が可能な保健師を育てたかったため,1年次は乳児と高齢者を1名ずつ継続訪問,2年次は保健所・保健センターの実習としている.看護師免許をもつ学生のため,困難事例に関わる学習機会も依頼している.山間部における実習では,住民組織に入り込めるよう教員もともに関わりながら住民の話し合いの場に参加し,学生がその活動の様子から得た情報を活かして健康教育を企画・実施するなど,関係性をつくりながら実践力を高める展開をしている.

3) 大学院化のメリット

最後に,大西氏から「教育していて手ごたえがある.6名と少人数のため学生ひとりひとりの個性を確認しながら教育できる.」,麻原氏から「当初は受験生の減少を心配するが,学内推薦制度や特別奨学金制度などにより対応できる.大学院教育はすごく楽しい.やりたいと思う教育ができる.」と,大学院化のメリットとともに大学院化を進める参加者への励ましの言葉をいただき,交流会を終了した.

4. 参加者の感想

終了後アンケートの回答者は7名,参加目的が「達成できた」3名,「まあまあ達成できた」4名であった.講師のご説明に,「カリキュラム構成や実習のあり方が参考になった」,「大学院教育の実際の内容を知ることができたことで前向きになり,準備を具体的に考えることができそう」など,講師への感謝の感想が多く,「分科会も参加しており,何度か参加することでいろいろな話が繋がり,理解を深めることができた」との感想も寄せられた.一方,今後の開催を望む意見と「カリキュラム完成後も運用と継続に課題が残るが,先行大学の工夫を共有できる機会があると心強い」,「時間的制約で仕方がないと思うが,(同じ立場の)他校の先生方と意見交換もできればなおよかったかと思う」と今後につながるご意見をいただいた.

IV. あとがき

大学院教育課程を開始する教員の交流を促進するために,来年度もこの事業を活動計画とし,参加者のご意見を今後の検討課題とする.本委員会が担うべき「上乗せ教育を推進する役割」を忘れず,教育体制整備に向けた活動を進めていくので,今後も忌憚のないご意見をいただきたい.

謝辞

本交流会の趣旨をご理解いただき,ご協力いただきました講師の先生方に,深く感謝申し上げます.先発校として頼もしく,また終始温かい態度をもって語ってくださった大西先生,麻原先生,ありがとうございました.

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