保健師教育
Online ISSN : 2433-6890
活動報告
公衆衛生看護学実習における保健所実習での実習方法の違いによる学生の学び
渡部 幸子大澤 豊子
著者情報
ジャーナル フリー HTML

2024 年 8 巻 1 号 p. 101-110

詳細
Abstract

【目的】保健所の臨地実習方法の違いによる学生の学びから,今後の教育への示唆を得る.

【方法】保健師課程4年23名を対象に保健所実習前後にアンケート調査を行い,〈臨地実習〉〈オンライン実習〉〈学内実習〉での方法別の単純統計と自由記載の検討,実習日誌から学びをカテゴリ化した.

【結果】保健所の機能と役割は〈臨地実習〉〈オンライン実習〉で理解した割合が高かった.保健師の役割は〈オンライン実習〉で理解した割合が高く,保健師との対話が学びに繋がった.共通した学びには【保健所の役割】【保健所の活動】【保健師の役割】があり,実際の体験に差があった.

【考察】臨地実習での学びは,体験だけではなく,現場で働く保健師との対話が学びに影響していた.実習施設と調整を図り,学びを深めることの重要性が示唆された.しかし,実習方法別の期間は2日間と短く,学内実習での共有時間も含まれていることから,明確な差異には課題は残った.

I. はじめに

2020年1月頃よりCOVID-19が世界を震撼させ,2月には厚生労働省(2020a2020b)から「新型コロナウイルス感染症対策の基本方針」が打ち出された.その後,文部科学省(2020)より「2020(令和2年)度における大学等の授業の開始等について(通知)」が提示され,緊急事態宣言から蔓延防止対策へ,そして解除へと制限は軽減されていった.オミクロン株の濃厚接触者の待機期間が7日短縮され,家庭内で感染があった場合を含め2日にわたる検査が陰性であった場合には待機が5日に短縮できることや大学等では感染防止と面接授業・遠隔授業の効果的実施等による学修機会の確保の両立に向けて適切に対応する等対応が緩和の方向に変更された.しかし,医療現場ではコロナ病床は満床であり,保健所でのコロナ発生の相談や電話対応,積極的疫学調査等を全庁体制で対応しており,また,陽性者の対応と従来業務は継続されていた(千葉県新型コロナウイルス感染症対策本部,2023).そのため,保健所職員の業務の多さは軽減されておらず,職員の疲弊も継続していることが考えられ,2021年同様の状態が継続していた(新型コロナウイルス感染症対策本部,2022).

このような状況から,保健師養成のための臨地実習の必要性は保健師助産師看護師学校養成所指定規則に定められているが,現状の感染政策(新型コロナウイルス感染症対策本部,2022)の中において,A大学では臨地実習は実習施設の状況に合わせた実習の対応となった.

細川ら(2022)の京都大学における実習方法の研究結果では,オンライン実習は手軽さのメリットと感情が伝わりにくいデメリットがあること,そして今後はオンラインを活用した地域での健康教育や健康相談の需要が高くなることから,教育での必要性が高くなることを述べている.磯村ら(2022)の山口大学におけるオンラインを取り入れた公衆衛生看護学実習を履修した4年生へのアンケート調査結果では,コロナ前より学生の主観として「保健師に十分に関わってもらった」は低く,さらに学習到達度についても低くなっていた.また習得する技術では,家庭訪問,保健事業,地域組織・グループ育成は,臨地実習で学べる技術であることを明らかにした.

このようにオンライン実習には,メリットやデメリットが明らかになっている一方で,保健師の技術を学ぶ上では適切な方法とはいえず,理解を深めるためには何らかの工夫が必要であると考える.

2022年,A大学における5日間の保健所実習は,施設の状況に合わせて,臨地実習,オンライン実習,学内実習の3つの実習方法とした.しかし,臨地実習,オンライン実習では実習時間が不足しているため,学内での実習を組み合わせて行った.

そこで,公衆衛生看護学実習における実習方法の違いによる学生の学びを明らかにし,比較することで実習方法についての示唆を得ることを目的とする.

II. 方法と対象

1. 公衆衛生看護学保健所実習の概要

A大学における公衆衛生看護学実習の保健所実習の方法(目的,目標,実施方法)について以下に示す.

1) 保健所実習のプログラム

(1)実習目的

地域特性や地域住民の生活を理解し,地域住民の健康の保持・増進と予防活動を目指した公衆衛生看護活動を実践する基礎的能力を養う.

(2)実習目標(市町村実習と保健所実習の両方を通しての実習目標)

①保健所・市町村の役割・機能およびその組織体系を説明できる.

②地域アセスメント〈地域診断〉の方法を理解し,地域の健康課題を説明できる.

③地域の健康課題,ヘルスニーズの把握から,PDCAサイクル(地域保健活動の計画立案・実施・評価・改善)の実際を説明できる.

④公衆衛生看護活動として,健康相談,健康診査,健康教育,家庭訪問の法的根拠と展開方法,公衆衛生看護管理を説明できる.

⑤地域組織・グループ支援,地域のソーシャルキャピタルの実際,地域づくりについて説明できる.

⑥保健師の行うネットワーキングおよび地域住民や関係機関との連携・協働の必要性とその方法・過程を説明できる.

(3)実習方法

新型コロナ感染症の蔓延の中で,大学教育においてオンライン学習が進んでいる.このような学習環境下において,本研究での臨地実習先である保健所は,感染症の中心的役割を担っており,学生の実習を受け入れるには困難な状況にあった.そのため,実習目標から学びが到達できるように実習先と調整を行い,〈臨地実習〉,〈オンライン実習〉,〈学内実習〉という実習施設の状況に合わせた実習方法とした.

①保健所実習のスケジュールと実習構成(表1

表1 

保健所実習の実習方法別スケジュールと構成

                    タイプ
構成
I臨地実習 IIオンライン実習 III学内実習
グループ 5 1 2・3 4・5
学生数 24 4 10(各グループ5人) 10(各グループ5人)
実習の構成 1日目 講義 臨地 学内 学内
2日目 実習 臨地 オンライン 学内
3日目 実習 臨地 学内 学内
4日目 振り返り 学内 学内 学内
5日目 振り返り タイプI・II・III合同での学びの共有(学内)

学生24名は4–5人で5つのグループを編成した.グループ1は4人で,臨地実習と学内実習,グループ2,3は5人で,オンライン実習と学内実習,グループ4,5は5人で,学内実習のみであった.1日目は,グループ1は他大学との合同講義を臨地で実施した.グループ2,3,4,5は学内講義であった.2,3日目の二日間はそれぞれの方法で実習を行い,4日目はすべてのグループが学内で振り返りを行った.報告会は全てのグループが学内で合同報告会を行った.

②実習方法別保健所実習プログラム内容(表2

表2 

実習方法別プログラム内容の対比

臨地実習 オンライン実習 学内実習
臨地実習 学内実習
1日目 実習項目 講義内容項目
1)県の動向
2)保健所について
・保健衛生福祉行政とは
・保健所の設置と事業・総務企画課業務・地域保健福祉課業務地域保健に関すること
・地域福祉に関すること・生活保護課業務・健康生活支援課業務・健康危機管理活動・検査課・食品起動監視課・監査指導課業
講義内容項目
1)県の動向
2)保健所について
・保健衛生福祉行政とは
・保健所の設置と事業・総務企画課業務・地域保健福祉課業務地域保健に関すること
・地域福祉に関すること・生活保護課業務・健康生活支援課業務・健康危機管理活動・検査課・食品起動監視課・監査指導課業
3)各実習先の事業と概要
実習方法 ①保健所のしおり・事業年報に沿って,保健所の各担当の職員による講義形式での説明が行われた
②他大学と合同で実施された
③質疑応答を受けていただいた
①オンライン実習と学内実習の学生を合同で教員が学内で実施した
②保健所のしおりに沿って保健所経験のある教員による講義を受けた
③保健所のしおりを用いて自己学習の後に,グループワークで意見交換を行った
2日目 午前 実習項目 ①オリエンテーション
②地域診断実習
①保健所の組織と仕事の概要
②事業説明(感染症・結核・HIV)
③質疑応答
①災害保健活動(DVD視聴40分)
実習方法 ①施設内の見学
②保健所長による地域診断の説明後,各学生が管轄地域の市町村を一つずつ代表とされる市と比較して地域診断を行った結果を発表した
③管轄市町村の地域診断から,保健所の管轄し地域の健康課題をグループで抽出した
④保健所保健師より管轄の地域診断について指導を受け,修正した
①保健所の管理職からの保健所の概要の説明を受けた
②保健師からの事業説明(感染症・結核・HIV)を受けた
③事業説明の中で経験事例(感染症・結核・HIV)の説明があった
視聴後にグループワークを行い,各フェーズで保健活動と保健師の役割をまとめた
午後 実習項目 事業説明
(母子保健・難病相談・地域・職域連携推進)
①事業説明(難病・母子保健)
②質疑応答
①災害保健活動
②公衆衛生看護管理(DVD視聴40分)
実習方法 ①各事業について,保健所職員より説明を受けた ①保健所保健師からの事業説明を受けた
②事業説明の中で経験事例の説明があった
③オンライン終了後,グループカンファレンスを行った
①災害保健活動について,グループ発表を行い,学習の共有を行った
②公衆衛生看護の管理について,視聴したDVD視聴の内容をグループワークで共有し,グループ発表を行い,学びを深めた
3日目 午前 実習項目 ①結核対策課内会議見学
②事業説明(結核予防・感染症・エイズ対策)
①事例検討(結核事例)
②情報の整理・学習・支援計画立案
実習方法 ①会議の見学を行った
②各事業について,保健所職員より説明を受けた
①熟練保健師による事例説明を受け,結核についての学習を行った
②グループで情報の整理を行った
午後 実習項目 事業説明(精神保健) ①結核事例の支援計画立案
②グループ発表
実習方法 ①事業の説明を受けた
②保健所保健師と教員を含めた学生の学びの振り返りのカンファレンスを行った
①結核事例について,個人での学習の内容をグループで共有し,支援計画を立案した
②各グループの発表を行い,意見交換し,学びを深めた
4日目 実習項目 ①報告会資料作成
②総合カンファレンス
実習方法 ①各グループでの保健所実習の実習目標に沿った振り返り
②発表のための資料をPowerPointで作成した
5日目 実習項目 ①保健所実習 学びの報告会
②教員からの総評
実習方法 ①会場準備や運営を学生が行った
②1グループ発表15分 質疑応答を5分で実習目標に沿ってPowerPointを使用して発表を行った
③教員からの総評を受けた
④質疑応答で体験や総評を基に発表資料の修正を行った

実習1日目は,臨地実習の1グループと学内実習の4グループに分かれた.臨地実習では,保健所職員による講義形式での保健所の役割と業務について説明を受けた.学内実習では,保健所のしおりと保健所の事業年報について自己学習と保健所経験のある教員からの説明を受けた.

2日目は,臨地実習のグループ1とオンライン実習のグループ2・3と学内実習グループ4・5の3つの実習方法に分かれた.臨地実習では,保健所管内の地域診断の学生による発表とそれに対する保健所長らからの助言指導があった.また,午後は保健師による講義形式の事業説明があった.オンライン実習では,保健所の各職員から保健所の組織と概要の説明を受け,保健師より事業説明を受け,質疑応答が行われた.教員は,PC機器の整備とオンラインの受信継続の環境整備を施設と調整しながら行った.学内実習では,災害保健活動のDVD視聴後,保健師の役割等の学びについてグループワークで意見交換を行った.また,公衆衛生看護管理のDVD視聴後は公衆衛生看護における管理についての学びについてグループワークで意見交換を行った.教員は機器の設定とグループワークでの助言指導を行った.

3日目は,臨地実習の1グループと学内実習をグループ2・3・4・5で行った.

臨地実習では,結核対策課内会議を見学し,保健師から,各事業説明の講義を受けた.臨地で保健師と教員を交えてのカンファレンスを行い,学びの共有を行った.学内実習では,保健所経験の長い保健師が結核事例の説明を行い,事例検討をグループで行った.情報の整理から支援計画まで立案し,4つのグループで発表し,熟練保健師と教員が助言を行い,学びの共有を図った.

4日目は,全グループが学内で実習の学びを深めるため,各グループで実習目標に沿って,総まとめとして総合カンファレンスを行った.さらに報告会に向けて発表資料を作成した.教員と実習指導教員は担当グループの助言指導を行った.

5日目は実習での学びについて作成した資料を基に,全グループが発表する合同報告会を行った.

2. 対象

保健所実習を終了したA大学保健師課程4年生24名のうち,研究に同意を得られた学生23名を対象とした.

3. 調査方法

1) アンケート調査

保健所実習の実習目標に沿って「よく理解できた」「まあまあ理解できた」「あまり理解できなかった」「理解できなかった」の4件法での解答とした.各項目について,その回答の理由の自由記載と保健所実習に対する自由意見をオンラインにて回答得た.また,アンケート調査は無記名で行い,報告会終了後評価が出た後30日以内で実施した.

2) 保健所実習の実習日誌の記録

毎日,実習終了後に体験内容と体験からの学び・感想をA4に1枚記載している実習の記録物で,実習方法が違う2日目と3日目の記録を使用した.

3) 分析方法

(1)アンケート調査の回答を学内実習と組み合わせた実習方法別である,①臨地実習,②オンライン実習,③学内実習の3グループに分けた.各項目のグループの記述統計を行った.次に自由記載の内容について質的に分析し,記述統計との関連性について検討した.以後,3つの実習方法を〈臨地実習〉〈オンライン実習〉〈学内実習〉と表記する.

(2)保健所実習の実習日誌をよく読み,実習の学びが記述されているところの文脈を切らずに抽出した.次にまとまりのある1文を内容の類似により束ね,サブカテゴリを抽出した.そのサブカテゴリを束ね抽象度をあげてカテゴリにした.カテゴリ【】,サブカテゴリ《》と示す.分析には看護学を専門とする研究者からスーパーバイズを受けた.

4. 倫理的配慮

データの使用にあたり「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針(文部科学省・厚生労働省)」に基づき,学業成績には影響しないこと,協力は強制ではないこと,同意した場合でも撤回できること,個人情報は適正に管理すること,データを論文等で公表することを口頭およびFormsにて学生へ説明した.Formsに同意欄を設けて同意する場合には☑を付けてもらうようにし,同意の確認を行った.本報告は了徳寺大学倫理委員会の承認を得た(承認番号22-12,承認月日2022年6月2日).

なお,本研究における利益相反(COI)はない.

III. 結果

1. アンケート結果

アンケートの回収率は23名(95.5%)であった.アンケートの結果は,同意を得た23名について以下に記す.また,自由記載は各(1)~(4)の項目について23名が記載していた.

(1)保健所実習形態の割合

〈臨地実習〉は4名(17%),〈オンライン実習〉は10名(44.4%),〈学内実習〉が9名(39%)であった.

(2)保健所の機能・特徴の理解(表3表4

表3 

保健所の機能や特徴の理解(n=23)

よく理解できた まあまあ理解できた あまり理解
できなかった
理解できなかった 合計
n (%) n (%) n (%) n (%) n (%)
臨地実習 2 (50.0%) 2 (50.0%) 0 (0%) 0 (0%) 4 (100%)
オンライン実習 4 (40.0%) 6 (60.0%) 0 (0%) 0 (0%) 10 (100%)
学内実習 1 (11.1%) 7 (77.8%) 1 (11.1%) 0 (0%) 9 (100%)
合計 7 (30.4%) 15 (65.2%) 1 (4.3%) 0 (0%) 23 (100%)
表4 

実習方法別の保健所の機能と役割の理解(自由記載)

実習形態 記載内容
臨地実習 ・実際に話を聞くことで保健センターと保健所の違いが理解できた
オンライン実習 ・事業年報は読んだだけでは理解が難しかったが,オンラインでの説明で理解できた
・保健師からの実際の話を聞くことグループワークで理解できた
・事例や主体的学習があったため
・直接話を聞いたことが良かった
・保健所の機能役割は学内では捉えにくい
学内実習 ・DVD視聴から災害時の保健所の役割が理解できた
・目で見たりできなかったが,イメージはできた
・DVD視聴や事例検討・教員からの助言を通して現場での動きや計画の流れは理解できた
・実際に行かないとイメージがつきにくい

〈臨地実習〉または〈オンライン実習〉では,14名(100%)の学生が「よく理解できた」「まあまあ理解できた」であった.理解できた理由に,〈臨地実習〉では4名の内3名が,〈オンライン実習〉では10名中5名が「実際に話を聞くことで理解できた」と記載していた.

一方,〈学内実習〉のみでは1名(11.1%)が「あまり理解できなかった」であった.自由記載では9名中2名が「実際に行かないとイメージがつきにくい」という意見があった.また,〈オンライン実習〉では10名中2名は「保健所の機能役割は学内のみでは捉えにくい」という意見があった.

(3)保健師の役割の理解(表5表6

表5 

保健師の役割の理解(n=23)

よく理解できた まあまあ理解できた あまり理解
できなかった
理解できなかった 合計
n (%) n (%) n (%) n (%) n (%)
臨地実習 2 (50.0%) 1 (25.0%) 1 (25.0%) 0 (0%) 4 (100%)
オンライン実習 6 (60.0%) 4 (40.0%) 0 (0%) 0 (0%) 10 (100%)
学内実習 1 (11.1%) 7 (77.8%) 1 (11.1%) 0 (0%) 9 (100%)
合計 9 (39.1%) 12 (52.2%) 2 (8.7%) 0 (0%) 23 (100%)
表6 

実習方法別の保健師の役割の理解(自由記載)

実習形態 記載内容
臨地実習 ・実際に行う事業の話を聞くことで理解できた
・保健所の機能についての説明が多かった
オンライン実習 ・住民と行政をつなぐ役割があること,ネットワークづくりをする役割がある
・さまざまな役割について,1つ1つ時間をかけながら考えることができた
・事業ごとに保健師がどんなかかわりをしたのかを学べた
・実際に話を聞けた
・具体的な役割がわからなかった
学内実習 ・事例検討,DVD視聴から広域的に活動していることが理解できた
・保健所と市町村の保健師の業務は全く違うのかと思ったが,連携しながら地域住民を支えていることが分かった
・保健師がどのようなことに意識して対象者と関わっているのかを知る機会がなかった
・実際に行かないとイメージができず確実な学びとは言えない

〈オンライン実習〉では「よく理解できた」「まあまあ理解できた」が合わせて10名(100%)であった.しかし自由記載に「具体的な役割が分からなかった」という記載があった.〈臨地実習〉では3名(75.5%)の学生が「よく理解できた」「まあまあ理解できた」であった.自由記載には,4名中2名,〈オンライン実習〉では10名中3名が「実際に話を聞けた」「事業ごとの話を聞けた」を理由として記載していた.〈学内実習〉は,8名(88.9%)が「よく理解できた」「まあまあ理解できた」であった.自由記載で10名中4名が理解できた理由として「事例検討,DVD視聴」を記載していた.

一方で,「あまり理解できなかった」のは,〈臨地実習〉では1名(25%),〈学内実習〉では1名(11.1%)であった.その理由として,〈臨地実習〉では「保健所の機能についての説明が多かった」であった.〈学内実習〉では9名中2名から「実際に行かないとイメージができず確実な学びとは言えない」であった.

(4)地域づくりの理解(表7表8

表7 

地域づくりの理解(n=23)

よく理解できた まあまあ理解できた あまり理解
できなかった
理解できなかった 合計
n (%) n (%) n (%) n (%) n (%)
臨地実習 1 (25.0%) 2 (50.0%) 1 (25.0%) 0 (0%) 4 (100%)
オンライン実習 2 (20.0%) 5 (50.0%) 3 (30.0%) 0 (0%) 10 (100%)
学内実習 0 (0%) 4 (44.4%) 5 (55.6%) 0 (0%) 9 (100%)
合計 3 (13.0%) 11 (47.8%) 9 (39.1%) 0 (0%) 23 (100%)
表8 

実習方法別の地域づくりの理解(自由記載)

実習形態 記載内容
臨地実習 ・センター長との地域診断を通して,学習を深めることができた
・講義の中でソーシャルキャピタルは信頼関係が大切だと学んだ
・実際に行っていることは想像がつかない
・具体的なことを質問できなかった
オンライン実習 ・ZOOMでの事例の説明でわかりやすかった
・ZOOMや報告会を通してソーシャルキャピタルについて理解できた
・実際に行っていることは想像がつかないためあまり理解できなかった
・地域組織活動は保健所毎に異なる点がある程度理解できたが,仕組みに関して不十分な点もある
学内実習 ・報告会でのまとめの発表を通して人と人とのつながりについて学べた
・事業年報でしか学ぶ機会がなかった
・資料だけでは限られている
・実際に行っていることは想像がつかない

地域づくりの理解については,〈臨地実習〉では「よく理解できた」「まあまあ理解できた」を合わせて3名(75%)が理解できた.また,〈オンライン実習〉では,「よく理解できた」「まあまあ理解できた」を合わせて7名(70%)が理解できた.

〈学内実習〉では,「よく理解できた」がおらず,「まあまあ理解していた」が4名(44.4%)であった.

一方で,全体では「理解できなかった」はいなかったものの,23人中9名(39.1%)が「あまり理解できなかった」であった.各実習方法別では,〈臨地実習〉では1名(25%),〈オンライン実習〉では3名(30%),特に〈学内実習〉では5名(55.6%)であった.その理由として,〈臨地実習〉では「具体的なことを質問できなかった」を挙げていた.〈オンライン実習〉では10名中3名が「実際に行っていることは想像がつかない」と記載していた.〈学内実習〉では5名中2名から「事業年報でしか学ぶ機会がなかった」という意見があった.さらに3つの実習方法ともに「実際に行っていることは想像がつかない」という意見があった.

2. 保健所実習の実習日誌からの学び

3つの実習方法での学びの共通内容は,3つのカテゴリである【保健所の役割】,【保健所の活動】,【保健師の役割】に分類された.【保健所の役割】は《管内の特徴の把握》,《体制づくり》,《都道府県・市町村・関係機関・多職種・住民との連携》の3つのサブカテゴリに分類された.【保健所の活動】は《災害時の活動》,《感染拡大防止への活動》の2つのサブカテゴリに分類された.【保健師の役割】は《信頼関係に基づいた支援》,《多職種との連携》,《社会情勢に合わせた対応》の3つのサブカテゴリに分類された(表9).

表9 

3つの実習方法に共通の実習日誌からの学びのカテゴリ分類

カテゴリ サブカテゴリ 共通内容
保健所の
役割
管内の特徴の把握 保健所管内の市町村の情報収集・分析する
体制づくり 危機管理の拠点として,情報収集・分析を行い事前の対策を立てている
各市町村の強みを生かした体制づくりが行われている
いろいろな職種の存在によるより専門的な体制づくりができる
都道府県・市町村・関係機関・多職種・住民との連携 多職種連携をしている
市町村や県との連携を行っている
保健所の
活動
災害時の活動 平常時からの体制づくりが行われている
今までの災害を振り返り,マニュアル化していく
感染拡大防止への活動 平常時からの体制づくりが行われている
個人を守りながら全体に対して対応していく必要がある
服薬管理(DOTS)が行われている
保健師の
役割
信頼関係に基づいた支援 相手の立場に立ってどのようなことが必要か考えながら住民に関わっている
多職種との連携 病院や多職種との連携により関係性を作っている
社会情勢に合わせた対応 社会情勢にあわせて,臨機応変な対応が大切である

3つの実習方法別の学びとしてカテゴリ化できなかった学び(表10)には,まず,保健師の業務について,〈臨地実習〉では「保健所内で服薬管理を周知していくこと」「自殺の原因は人との関わりがないことが原因となるためつながりを作る」があった.〈オンライン実習〉では「数値だけではわからないことを拾い上げて対応する」「保健師はまだ解明されていない状況の中で,手探りで実施していくこともある」ことがあった.〈学内実習〉では「災害時の保健師の役割はフェイズごとに異なることを理解できた」があった.次に,実際の体験の学びとして〈臨地実習〉では,「地域診断の重要性が理解できた」「実際の場を見ることができた」ことがあった.〈オンライン実習〉では「すべての経験が身になるという言葉が今後の自分の励みになった」「資料だけでは分からなかったが,実際の話が聞けた」ことがあった.

表10 

実習方法別の学びとしてカテゴリ化できなかった学び

内容
臨地実習 オンライン実習 学内実習
保健師の業務 ・保健所内で服薬管理を周知していく
・自殺の原因は人とのかかわりがないことが原因となるためつながりを作る
・数値だけではわからないことを拾い上げて対応する
・保健師はまだ解明されていない状況の中で,手探りで実施していくこともある
災害時の保健師の役割はフェイズごとに異なることを理解できた
実際の体験 ・地域診断の重要性が理解できた
・実際の場を見ることができた
・「すべての経験が身になる」という言葉が今後の自分の励みになった
・資料だけではわからなかったが,実際の話が聞けた

IV. 考察

アンケート調査と実習日誌から得られた実習方法別の学びについて,保健所の機能と役割,保健師の役割,地域づくりについて検討し,実習方法への示唆について考察する.

1. 保健所の機能と役割の学び

保健所の機能と役割の学びは,実習目標1に当たることを踏まえ,考察する.

保健所の役割について,《管内の特徴の把握》,《体制づくり》,《都道府県・市町村・関係機関・多職種・住民との連携》についてどの実習方法でも学んでいた.保健所の役割の理解については〈臨地実習〉と〈オンライン実習〉では「よく理解できた」が約50%であり,〈学内実習〉が11.1%程度であった.〈学内実習〉は実習日誌に,保健所の役割・機能についての記載はあるものの,アンケート調査での自由記載にあるように,「実際に行ってみないとイメージがつきにくい」ことがあった.これは,実際の教科書や参考書等に記載されていることは理解しても,実体験に見合うような具体性に欠けるため学習が深まらなかったと推察される.視覚教材を使用しての〈学内実習〉は,実際を想起するための補助教材としては有効であるが,関わりや声掛けなどの場面では,映像には限りがあり,見たい部分や説明等をすべて取り扱っていない(平賀ら,2018).そのため,実際の雰囲気に触れられないことは,実際に自分の目で見て聞いてくる五感の体験には及ばないと考える.特に保健所の活動は,学生の生活の中で遭遇することが少ない点も影響していると考える.

2. 保健師の役割の学び

保健師の役割の学びは,実習目標2~4と6に当たることを踏まえ,考察する.

保健師の役割について,「理解できた」「まあまあ理解できた」の合計割合が,〈臨地実習〉75%,〈オンライン実習〉100%,〈学内実習〉88.9%がであった.〈オンライン実習〉だけが,保健師の役割を「あまり理解できなかった」学生はいなかったのに対し,〈臨地実習〉25%と〈学内実習〉11%が「あまり理解できない」であった.〈臨地実習〉は人数が少なく1名の増減が大きく割合に影響はするが,保健師の役割を理解できると考えていたため,想定しない結果であった.その理由として,〈臨地実習〉では「保健師の話の時間が少なかった」という意見があり,理解不足を感じていた.これは,実際に保健師からどのくらいの説明を受けたか,また接した時間など,プログラムの内容や構成時間が学生の理解に影響を与えた可能性がある.また,〈オンライン実習〉では,事業説明などを保健師が行い,さらに事例を取り入れた活動の話が中心であり,学生との対話が多かった点が役割の理解につながっていた.細川ら(2022)の報告には,オンラインは感情が伝わりにくいとあるが,一方的な説明に終わらず,双方の対話が成立できるような環境を整備することでそのデメリットは払拭できると考える.〈学内実習〉では,実際の場面を見ることができないため,保健師が住民と関わる様子や実際のイメージが付きにくく,理解が深まらないことに繋がっていた.

〈臨地実習〉での特徴的学びとして「地域診断の重要性が理解できた」があった.地域診断は,実習目標2にもあるように保健師に求められる実践能力のためには重要な技術であり,大項目I.地域の健康課題の明確化と計画・立案する能力の中の技術(厚生労働省,2020a)として重要である.〈臨地実習〉でのみ学びとして上がってきた理由があった.それは,保健所から事前学習として,学生個人で一つの管内の市町村の地域診断を行ってくる課題が出され,保健所実習中に個人の市町村の地域診断を持ち寄り,グループで管内の地域診断を行うというプロセスがあった.その際,保健所の所長からの説明や地域診断の視点,さらに管内の健康課題が提示された.実習終了後には,保健師より助言指導があった.この体験は,〈臨地実習〉というその場での体験であり,ダイナミックで流動的な対象や家族の心理や葛藤などに触れる体験であり,現実味を帯びたもの(渡部ら,2021)であり,地域診断の重要性が伝わった体験となったと考える.一方で,〈オンライン実習〉や〈学内実習〉では,現実味を帯びた体験とはなりにくいと推察される.しかし,より体験に近い学習として現在では,基礎教育の中でシミュレーション教育の一つとして技術習得に効果的であるVR(Aebersold,2018)などのICT技術が利用してされている.この新技術は〈臨床実習〉に学内実習を近づかせる可能性があると考える.

3. 地域づくりの理解

地域づくりの理解については,実習目標5に当たり,それを踏まえて考察する.

地域づくりの理解について,「理解できた」「まあまあ理解できた」の合計割合が,〈臨地実習〉75%,〈オンライン実習〉70%,〈学内実習〉44.4%であった.〈学内実習〉では「よく理解できた」は0%であり,「あまりできなかった」は55.6%であった.〈臨地実習〉や〈オンライン実習〉では,地域での活動について,保健所の職員や保健師から具体的な説明や事例を挙げて説明があった.保健所は学生にとって出会う機会が少ない(岡久ら,2010)ことから,〈学内実習〉では,「想像がつかない」「資料だけでは限られている」というような,保健所の実際に触れる機会がなかったために起きた学生の理解不足に繋がり,学内実習の限界であったと考える.

4. 実習方法別による学びの特徴から得られた示唆

保健所の機能や役割について,実習目標に沿っての講義によって,どの実習方法でも理解できた.しかし,その他の実習目標の内容においては,〈臨地実習〉や〈オンライン実習〉に比べ,〈学内実習〉では,学生のイメージがつきにくかったことが挙げられた.実習方法の比較では,〈オンライン実習〉では,保健師への質問や対話によって,保健師の役割の理解を深めていた.これは,武田ら(2022)の報告のように,看護学生の臨地実習では,看護師などの他者との関わりの場面から実践的に学んでいるように,保健師学生は,現場の保健師などとの対話による関わりによって,実際のイメージが付き理解が深まったと考える.

このような〈臨地実習〉〈オンライン実習〉〈学内実習〉という実習方法は,「2020(令和2年)度公衆衛生看護学実習に関する調査報告」(鈴木ら,2022)によれば,新たな感染症や災害への対応を迅速にできる保健師養成教育を今後も検討していく重要性が明らかにされており,今後も継続されると考える.その中で,大学として実践能力の育成に対し,現場で働く保健師に出会い,対話をすることが大きく学習の理解に影響することを踏まえておくことは重要である.臨地に出向くことが困難であれば,オンラインでの対話であっても,学内実習のみの実習よりも学生はイメージができ,学習が深まっていくことが学生の実習記録やアンケートの結果から示唆された.よって,実習施設と調整を図りながらオンライン実習のより効果的な導入を検討にしていくことは重要なことである.

しかし,学内実習では住民と保健師との交流の場面,保健師の思いや認識などを学生にリアリティを持って伝えることには限界がある(三輪ら,2021渡部ら,2021)ため,臨地実習でなければ得られない体験は重要である.また,布花原ら(2018)は,学生は保健師という職業の解釈には保健師が働く場と仕事の特性を理解し,保健師に必要なものに気づき,保健師への心理的接近を図ることで自己の職業キャリアとしての保健師を選択することを述べている.このように,学生は,臨地実習での実際を通して保健師という職業の存在の重要性に気づき,自分のキャリアとして保健師を見つめることが可能となると考えられる.

公衆衛生看護学実習における〈臨地実習〉〈オンライン実習〉〈学内実習〉という実習方法別による学びには,実習体験の有無による理解度の差だけではなかった.〈オンライン実習〉であっても,保健師に出会い,対話をすることが学びに影響を与えていることが示唆された.

本田ら(2021)も述べているが,現場の空気感や保健師の実際の動きを見ることが重要であることからも,なるべく現場に出向くことやオンラインであっても保健師との対話を取り入れた実習内容の可能性について,実習施設との調整が必要である.

V. おわりに

公衆衛生看護学実習における〈臨地実習〉〈オンライン実習〉〈学内実習〉という実習方法別による学びは,保健師に出会い,対話をすることが学びに影響を与えていた.現場の空気感や保健師の実際の動きを見ることが重要であることからも,なるべく現場に出向くことやオンラインであっても保健師との対話を取り入れた実習内容について,実習施設との調整が必要である.

今回の研究では,5日間のうち,3日間は学内で同じ実習方法(1日目4日目5日目)のため,〈臨地実習〉〈オンライン実習〉〈学内実習〉の学びは2日間の比較であった.そのため,学びの結果に共通項が多かったことからも,明確な違いを明らかにするには限界があったと言える.

文献
 
© 2024 一般社団法人 全国保健師教育機関協議会
feedback
Top