目的:公衆衛生看護学実習の代替として実施したオンライン実習について,学生が有意義と意味づけた体験を明らかにする.
方法:保健師教育課程の学生6名に対し半構造化面接を行った.研究方法は質的記述的であった.
結果:オンライン実習において,学生が有意義と意味づけた体験として,【情報が整理された多様な教材で学ぶ】【支援計画を他学生と共有しディスカッションする】【技能の実践と評価を体験する】【他学生・教員とつながる】【時間的な余裕を活用する】【自分のペースで実習を進める】の6カテゴリーが明らかになった.
考察:今後,感染症や災害等によりオンライン実習に変更せざるを得ない状況が生じた際,本活動報告の結果を踏まえ学びの深化を図り,学生が安心して実習に臨めるよう実習プログラムを構築する必要がある.
新型コロナウイルス感染症(以下,「COVID-19」とする)は2019年12月に中国で確認され,我が国では2020年1月に最初の感染者が確認された.そして日本においては,2020年4月に政府から全国に緊急事態宣言が発出された(内閣官房新型コロナウイルス等感染症対策推進室,2020).この状況により,医療関係職種等の臨地での実習が困難な状況となった.文部科学省・厚生労働省(2020)は,2020年2月28日付で「新型コロナウイルス感染症の発生に伴う医療関係職種等の各学校,養成所及び養成施設等の対応について」を通達している.この通知では,実習施設の変更,実習施設の確保が困難である場合には年度をまたいで実習を行っても差し支えないことが示された.また,これらの方法によっても実習施設等の代替が困難である場合,演習または学内実習等を実施することにより,必要な知識及び技能を修得することとして差し支えないとされた.これに基づき,2020年度の看護系大学における公衆衛生看護学実習は,約9割が遠隔実習や学内実習等への実習方法の変更が行われた(日本看護系大学協議会,2020).
本学では,保健師教育課程(選択制)を設置し,保健師を養成している.この課程において,これまで4年次の実習を5月中旬から7月下旬にかけ,市町村,保健所および専門機関にて実施してきた.しかし,COVID-19の陽性者数の増加に伴い,実習施設において学生の実習受け入れが困難となり,2020年度の実習は,臨地での実施が不可能となった.また,学生等の大学構内への入構が全面的に禁止されたことによって,学内での実習も困難な状況が生じた.さらに4年次の実習は,翌年度への延期ができないことから,2020年度は急遽,完全遠隔による代替的実習(以下,「オンライン実習」とする)に変更して実施した.
オンライン実習は教員にとって初めての体験であったことから,教員間で意見交換を行い,修正を繰り返しながら実習プログラムを作成した.具体的には,はじめにオンライン実習を踏まえた実習目標の設定を検討した.次に,学生が実習目標を達成できるように実習内容および方法の検討を行った.このような過程を経て実習プログラムを精緻化していった.この状況で実施したオンライン実習を2020年度に履修した4年次学生20名の実習目標到達度は,教員評価で平均82.7点(100点満点中)であり,到達度は8割を超える結果であった.さらに,このオンライン実習は,学生にとっても初めての体験であり,不安や困難を抱えながら実施したことは容易に推察された.一方で,このオンライン実習において,学生が意義や価値があったとみなした体験の有無については不明であった.このことから,それらの体験について学生の視点から明らかにしたいと考えた.
本活動報告では,COVID-19流行下,本学の臨地における公衆衛生看護学実習の代替的実習として実施したオンライン実習において,学生が有意義と意味づけた体験を明らかにする.このことにより,今後,有事により臨地実習が困難になり,オンライン実習にせざるを得ない状況になった際,可能な限り学生が有意義と思える実習プログラムの作成に活用できる.
本学の保健師教育課程区分は大学(選択制)である.公衆衛生看護学実習は,3年次前期に1単位(公衆衛生看護学実習I),4年次前期に4単位(公衆衛生看護学実習II)を配置している.3年次の実習は市町村における実習であり,公衆衛生看護活動の理解を目的とした見学実習である.4年次の実習は市町村,保健所,専門機関における実習であり,公衆衛生看護活動の実践を伴う実習である.実習目的は,「個人,家族,集団及びコミュニティの健康課題の解決に向け組織的に展開されている公衆衛生看護活動に参与し,それらの実際を理解する.また,公衆衛生看護活動を展開するための基礎的実践能力を養う」とし,この目的を達成するための目標及び下位項目を設定している.2020年度に4年次であった学生は,3年次の実習を臨地で行い,4年次の実習はオンラインで行った(表1).
本学の公衆衛生看護学実習の概要
実習名 | 公衆衛生看護学実習I | 公衆衛生看護学実習II |
実習時期 | 3年次前期 | 4年次前期 |
実習単位 | 1単位 | 4単位 |
実習場 | 市町村 | 市町村,保健所,専門機関 |
実習目的 | 個人,家族,集団及びコミュニティの健康課題の解決に向け組織的に展開されている公衆衛生看護活動に参与し,それらの実際を理解する.また,人々の健康に資する公衆衛生看護活動の役割を理解する. | 個人,家族,集団及びコミュニティの健康課題の解決に向け組織的に展開されている公衆衛生看護活動に参与し,それらの実際を理解する.また,公衆衛生看護活動を展開するための基礎的実践能力を養う. |
実習目標 | 1.公衆衛生看護活動が展開される場の概要と特性について説明することができる. 2.公衆衛生看護活動の実際について説明することができる. 3.対象がもつ健康課題及びその関連要因と公衆衛生看護活動のつながりについて説明することができる. 4.人々の健康に資する公衆衛生看護活動の役割について述べることができる. 5.公衆衛生看護学実習Iに真摯に取り組むことができる. |
1.公衆衛生看護の倫理的実践の原則と課題について説明することができる. 2.対象の健康課題およびその解決に向けた公衆衛生看護活動の実際について説明することができる. 3.個人や家族,集団及びコミュニティを対象とした看護過程において,実習指導者や実習指導教員の助言を受けながら,情報収集,解釈・分析,計画立案を行うことができる. 4.個人や家族,集団を対象とした看護過程において,実習指導者や実習指導教員の助言を受けながら,実施,評価を行うことができる. 5.公衆衛生看護活動の本質について述べることができる. 6.公衆衛生看護学実習IIに真摯に取り組むことができる. |
2019年度 | 臨地実習 | 臨地実習 |
2020年度 | オンライン実習 | オンライン実習 |
実習目標は変更せず,下位項目を変更した.対象や実習指導者との関係に関する項目は,臨地でしか達成できない項目のため削除した.オンラインにより対面での学習状況の把握が困難であったことから,学生の状況把握に必要な項目を新たに追加した(表2).実習目標の検討にあたり,実習目標は変更しなかったが,目標達成が出来るよう実習内容を工夫していくことを教員間で確認した.
公衆衛生看護学実習IIの実習目標
2020年度公衆衛生看護学実習II 実習目標及び下位項目 | 2019年度からの変更箇所 |
---|---|
1.公衆衛生看護の倫理的実践の原則と課題について説明することができる. | |
1)対象の価値観および生命・生活・人生を尊重することの重要性と方法を述べることができる. | ― |
2)対象の潜在能力や主体性の発揮を支援することの重要性と方法を述べることができる. | ― |
3)対象に対するサービスの公正な分配の重要性と方法を述べることができる. | ― |
4)公衆衛生看護が直面する倫理的課題について述べることができる. | ― |
2.対象の健康課題およびその解決に向けた公衆衛生看護活動の実際について説明することができる. | |
1)対象の健康課題の解決に向け,公衆衛生看護活動が展開される場の概要と特徴を説明することができる. | ― |
2)個人や家族が持つ健康課題とその関連要因を説明することができる. | ― |
3)個人や家族が持つ健康課題の解決に向けた公衆衛生看護活動の実際(背景,目的・目標,内容,方法及び評価)を説明することができる. | ― |
4)集団やコミュニティが持つ健康課題とその関連要因を説明することができる. | ― |
5)集団やコミュニティが持つ健康課題の解決に向けた公衆衛生看護活動の実際(背景,目的・目標,内容,方法及び評価)を説明することができる. | ― |
6)対象の健康課題の解決に向けた地域ケアシステムの概要及び多職種によるチームアプローチの実際を説明することができる. | ― |
7)個人や家族,集団及びコミュニティが持つ健康課題の解決における保健師の役割について,実習体験を踏まえ,自分の考えを述べることができる. | ― |
3.個人や家族,集団及びコミュニティを対象とした看護過程において,実習指導者や実習指導教員の助言を受けながら,情報収集,解釈・分析,計画立案を行うことができる. | |
1)個人や家族,集団を対象とした看護過程において,必要な情報を収集することができる. | ― |
2)個人や家族,集団を対象とした看護過程において得た情報を解釈・分析し,健康課題とその構造を明らかにすることができる. | ― |
3)個人や家族,集団を対象とした看護過程において明らかにした健康課題とその構造を踏まえ,公衆衛生看護活動を立案することができる. | ― |
4)コミュニティを対象とした看護過程において,必要な情報を収集することができる. | ― |
5)コミュニティを対象とした看護過程において得た情報を解釈・分析し,健康課題とその構造を明らかにすることができる. | ― |
4.個人や家族,集団を対象とした看護過程において,実習指導者や実習指導教員の助言を受けながら,実施,評価を行うことができる. | |
1)個人や家族,集団を対象とした看護過程において,立案した計画に基づき,公衆衛生看護活動を実施することができる. | ― |
2)個人や家族,集団を対象とした看護過程において実施した公衆衛生看護活動を評価することができる. | ― |
3)個人や家族,集団及びコミュニティが持つ健康課題の解決に向けた看護過程とその特徴について,実習体験を踏まえ,自分の考えを述べることができる. | ― |
5.公衆衛生看護活動の本質について述べることができる. | |
1)公衆衛生看護活動とは何か,実習体験を踏まえ,自分の考えを述べることができる. | ― |
2)公衆衛生看護活動に求められる実践能力について,実習体験を踏まえ,自分の考えを述べることができる. | ― |
3)公衆衛生看護活動に求められる実践能力を踏まえ,自己の課題を述べることができる. | 2020新規 |
6.公衆衛生看護学実習IIに真摯に取り組むことができる. | |
1)実習において主体的かつ省察的に行動することができる. | ― |
2)実習において計画的に行動することができる. | ― |
3)実習において報告・連絡・相談を的確に行うことができる. | ― |
4)必要な知識を確認,整理しながら実習に取り組むことができる. | ― |
5)実習記録を丁寧に記述することができる. | ― |
6)実習記録および課題を適切なタイミングで提出することができる. | 2020新規 |
・対象と真摯に向き合い,信頼関係を丁寧に築くことができる. | 2020削除 |
・実習指導者や他のスタッフ,グループメンバーと良好な関係を築くことができる. | 2020削除 |
※「―」は2019年度から変更がないことを示す
実習内容及び方法は,保健師活動における事例等のVTR視聴や資料の熟読,個別・集団・地域に関する事例を用いた個人での支援計画立案やグループワーク等を組み入れて構成した.VTRや資料,地域診断や家庭訪問,保健指導の事例は,全学生共通とした.プログラムの構成にあたり,教員が過去に経験した臨地実習のプログラムを想定し,教材や課題等の内容やそれらを提示するタイミングを意図的に工夫した(表3).
実習内容及び方法
実習ガイダンス | ・実習の目標や内容等に関する説明を理解する. ・実習の目標や内容等に関する説明を理解できているか,確認テストを用いて確認する. |
保健事業 | ・保健事業等に関する事前学習を行う. ・事前学習を行った保健事業等に関するVTRの視聴(概論,乳幼児健診,健康教育,地域診断)または実践例の熟読(低出生体重児支援,精神疾患を持つ母親の育児支援,虐待防止対策,学童期の心の健康,生活習慣病対策,産業保健)をする. ・実践例を熟読後,保健師のあり方や役割等の考察を行う. |
家庭訪問 | ・教員が作成した新生児訪問に関する紙上事例を理解するための知識を調べ,まとめる. ・新生児訪問に関する紙上事例に対する家庭訪問計画を立案する. ・立案した家庭訪問計画を実習グループで共有する. ・立案した家庭訪問計画を基にディスカッションを行う. ・ディスカッションを基に家庭訪問計画を修正し,対象者にあった支援計画の立案を行う. |
健康診査に おける保健指導 |
・教員が作成した乳幼児健診の保健指導に関する紙上事例を理解するための知識を調べ,まとめる. ・乳幼児健診の保健指導に関する紙上事例に対する保健指導案を立案する. ・立案した保健指導案を実習グループで共有する. ・立案した保健指導案を基にディスカッションを行う. ・ディスカッションを基に保健指導案を修正し,対象者にあった保健指導案の立案を行う. |
地域診断 | ・教員が作成した市町村事例の中から情報収集し,情報の整理を行う. ・家庭訪問や健康診査の事例からも情報収集し,情報の整理を行う. ・情報の整理を基に,市町村事例の状況を関連図にあらわす. ・関連図を踏まえて,市町村事例の状況のアセスメントを行う. ・アセスメントを踏まえ,市町村事例の健康課題を抽出する. |
健康教育 | ・健康教育の企画を立案するために必要な知識を調べ,まとめる. ・地域診断で抽出された健康課題の中から優先順位の高い健康課題を選択し,その健康課題を解決するための健康教育の企画書および指導案を立案する. ・立案した健康教育の企画書および指導案を実習グループで共有する. ・立案した健康教育の企画書および指導案を基にディスカッションを行う. ・ディスカッションを基に健康教育の企画書および指導案の修正を行う. ・健康教育を実践するための台本および媒体作成を行う. ・健康教育の実践をする(自己の実践を動画で撮影する). ・撮影した動画を踏まえ,自己の健康教育実践の評価を行う.そして,今後の課題を見出す. |
保健所および 専門機関の理解 |
・保健所および専門機関の概要をホームページ等で調べる. ・保健所および専門機関における保健師の活動実践例を熟読する. ・ホームページ等の閲覧および活動実践例の熟読を踏まえ,保健所および専門機関の専門性,保健師の役割等の考察を行う. |
カンファレンス | ・学生がテーマを決める. ・テーマに沿って,学生でカンファレンスを行う. ・カンファレンスの内容を踏まえ,実習指導教員が講評を行う. |
具体的な実習プログラムの工夫を以下に示す.保健事業に関する実習では,VTRの視聴や実践例の熟読を行った.VTRや資料は,学生が実際の活動を理解しやすいよう活動の背景やプロセスが理解しやすいものを使用した.個別支援から集団支援,地域支援と実際の地区活動の順序性を考慮して提示した.教育用の既存の媒体だけではなく,インターネット等を活用し,一般公開されており使用可能な複数の自治体の実践例を提示した.家庭訪問及び健康診査における保健指導に関する実習では,教員が作成した事例に対する支援計画を学生個人で立案した.次に,学生同士で支援計画を共有し,ディスカッションを行った.その後,ディスカッションを踏まえて学生個人で支援計画を修正した.支援計画立案の前に,学生が事例の理解を深めることができるよう,専門用語等を調べる時間を設定した.地域診断に関する実習では,参考書の地域診断事例を一部改変して使用した.さらに,実際の地域診断における情報収集をイメージできるよう,家庭訪問事例や保健指導事例からも情報が得られるようにした.健康教育に関する実習では,地域診断事例で抽出した健康課題に関する健康教育企画を学生個人で立案した.次に,グループの学生同士で企画を共有し,ディスカッションを行った.その後,ディスカッションを踏まえて学生個人で企画の修正を行った.さらに,学生個人で健康教育を実践し,実践の様子を学生自ら撮影した.そして,企画や実践が適切であったかについて,学生個人で客観的に振り返ることを行った.
ディスカッションとカンファレンスは,同時双方向型遠隔システム(Google meet)を使用して行った.グループは5グループ構成とし,1グループは4名とした.プログラムの順序性を考慮し,ディスカッションは火曜日または水曜日に設定し,カンファレンスは金曜日に設定した(表4).
実習プログラム
月 | 火 | 水 | 木 | 金 | |
---|---|---|---|---|---|
1週目 | ・実習オリエンテーション ・保健師活動に関するVTR視聴 ・市町村事例の情報収集,情報整理 |
・保健師の家庭訪問に関するVTR視聴,実践例熟読 ・家庭訪問計画立案 |
・家庭訪問計画立案 ・家庭訪問計画に関するディスカッション ・家庭訪問計画修正 |
・保健師活動に関する実践例熟読,レポート作成 ・家庭訪問計画修正 |
・保健所に関するVTR視聴,資料熟読,レポート作成 ・1週間を通してのカンファレンス |
2週目 | ・健康診査に関するVTR視聴 ・保健指導の事例熟読 ・保健指導計画立案 |
・専門機関機能調べ,レポート作成 ・保健指導計画修正 |
・保健指導計画に関するディスカッション ・保健指導計画修正 |
・地域診断実践例熟読 ・市町村事例熟読,用語調べ ・市町村事例の情報収集,情報整理 |
・1週間を通してのカンファレンス ・市町村事例に関する関連図作成 |
3週目 | ・保健師活動の実践例熟読,レポート作成 ・関連図修正 |
・市町村事例に関する解釈分析と健康課題抽出 ・保健師活動の実践例熟読 |
・市町村事例の解釈分析と健康課題に関するディスカッション ・市町村事例の解釈分析と健康課題修正 |
・健康教育実践例の熟読,VTR視聴 ・健康教育企画書作成 |
・健康教育企画書修正 ・1週間を通してのカンファレンス |
4週目 | ・健康教育指導案作成 | ・健康教育企画書および指導案に関するディスカッション ・健康教育指導案の修正・台本作成 |
・健康教育の台本作成 ・健康教育実践の媒体作成 |
・健康教育実践 ・健康教育実践の振り返り ・健康教育実践に関するディスカッション ・健康教育指導案等の修正 |
・4週間を通してのカンファレンス ・実習記録整理 |
実習記録や支援計画は毎日提出とし,優れている点や改善が必要な点等を教員が記入して,当日中にフィードバックを行った.
学生からの質疑応答や相談等に対しては,学内メールや同時双方向型遠隔システム(Google meet)を使用してやりとりを行った.質問時間はプログラム内に設定し学生に提示した上で対応した.設定以外の時間は学内メールで随時対応した.実習指導教員は3名体制とし,教員1名あたり1または2グループの指導を担当した.
オンライン実習:同時双方向型システム(Google meet)やオンデマンド,動画視聴,資料熟読を用いた完全なオンライン実習とする.
有意義と意味づけた体験:有意義とは「意義のあること.価値のあること」,価値とは「評価主体によってよいとされる性質」,意味づけるとは「意味を持たせる」である(新村,2018).これらを参考に,本研究では,学生が良かったとした体験,意義や価値があると意味を持たせた体験とする.
2. 研究協力者保健師教育課程において,2020年度に公衆衛生看護学実習IIを履修した4年次学生20名のうち,研究協力の同意が得られた6名とした.
3. データ収集2020年11月から2020年12月に,研究協力者に半構造化面接を1名につき1回,30分から1時間程度の時間で行った.面接は,研究者のうち2名が実施し,同時双方向型システム(Google meet)を用いて行い,面接の内容は,研究協力者の協力を得て,録画およびICレコーダーに録音した.データ収集は,オンライン実習の中で得られたことや良かったこととその理由,臨地での実習に比べオンライン実習だからこそ得られたことや良かったこととその理由とした.
4. 分析方法面接を実施した2名の研究者が録音データから作成した逐語録を繰り返し読み込み,語りの中から,公衆衛生看護学実習IIにおけるオンライン実習で,学生が有意義と意味づけた体験を抽出し,コードとした.コードの抽出にあたっては,2名の研究者間で検討し,コードの抽出箇所の追加などを行った.その後,コードの意味内容の類似性や差異性に着目し,比較検討を繰り返しながら,サブカテゴリー,カテゴリーへと抽象度をあげた.分析の際,データ,コードに戻ることを繰り返しながら進め,分析の過程において,信用性,確実性を確保するため,研究者間で検討をした.さらにコード化に直接関与しておらず,かつ質的研究の経験を有する研究者に抽出箇所に関する妥当性の確認を得た.
5. 倫理的配慮研究協力者には,研究の目的,方法,本研究への参加と同意撤回の自由,倫理的配慮等を明記した研究説明を口頭と文書にて行い,研究同意書への署名にて同意を得た.なお,研究に参加しない場合,あるいは中断した場合でも保健師教育課程における成績や学習支援等への不利益が生じることは一切ないことを説明した.また,面接や研究の分析は本科目の成績評価の終了後に行った.逐語録等の研究に係るデータのうち個人の特定につながる情報は全て記号に変換した.本研究は,東北福祉大学研究倫理委員会の承認を得て実施した(2020年7月31日:承認番号RS200705).
オンライン実習において学生が有意義と意味づけた体験として,56のコード,20のサブカテゴリー,6のカテゴリーが抽出された(表5).以下,カテゴリーを【 】,サブカテゴリーを〈 〉で示す.
オンライン実習で学生が有意義と意味づけた体験
カテゴリー | サブカテゴリー | コード(類似したコードの数) |
---|---|---|
情報が整理された多様な教材で学ぶ | 資料で様々な自治体の活動・事業を知ることができる | ・教材を通して他の自治体の活動をみることで,自治体による違いを学べた(1) ・オンライン実習で提示された資料で様々な事業があることを知る機会になった(1) |
情報が整理された資料であったことにより理解しやすくなる | ・紙上事例は情報がまとまっているため理解しやすいと思った(1) ・臨地実習では目的が十分に理解できないまま事業に入ることがあるが,オンライン実習の資料は整理されていて理解しやすかった(1) | |
情報が整理された紙上事例だからこそ事例にじっくり向き合える | ・紙上事例だとじっくり理解し,事例に向き合うことができた(1) ・臨地実習では見落としてしまう情報があるが,紙上事例であると何度も情報に向き合うことが可能になり情報を統合して考えやすかった(1) | |
共通事例の支援計画立案に取り組むことにより多角的な視点に気づく | ・臨地実習では個人で担当する対象が異なるが,オンライン実習では同じ1つの事例を対象とするため,多様な角度から対象をアセスメントすることができた等(2) ・臨地実習では個人で担当する対象が異なるが,オンライン実習では同じ対象であったため,自分では気が付かなった支援を考えることができた(1) ・同じ事例の支援計画でも学生によって目の付け所が異なり,自分にはないものを他学生から得ることができた(1) ・同じ事例を使用して,他学生の意見を聞いていくことで,計画をより良くしていくことができた(1) | |
支援計画を他学生と共有しディスカッションする | 他学生とのディスカッションにより完成度の高い支援計画を立案できる | ・オンライン実習で立案した計画をもとにカンファレンスをすることで,自分で考える力がつき完成度が高い計画を立案することができた(1) ・他学生と話し合いを重ねながら計画を立案することにより,中身の濃い計画を作ることができた(1) ・自分1人の視点であると一点からしか見えず計画の立案が止まってしまうが,他学生と話し合う場があると計画を立案しやすかった(1) |
支援計画に関する他学生とのディスカッションにより自分の気づけない点に気づく | ・他学生の計画と自分の計画を共有しディスカッションすることで,自分では気づかないところがわかった(1) ・ディスカッションで他学生の意見を聞けたことにより,目の付け所が異なることがわかり,多角的に物事をとらえることができた(1) ・自分が気づいたところで他学生は気づいていないこともあり,お互いの不足をオンラインだからこそ補うことができた(1) | |
他学生の支援計画を確認することにより自己の計画との相違に気づく | ・ディスカッション前に他学生の支援計画を共有し,その後ディスカッションすることで,自分との相違点が見つけられた(1) ・他学生の支援計画を見ることで,自分だけでは気づけない点があり,自分の学びに変えることができた(1) ・他学生の支援計画を見ることで,更に良くしようという姿勢で取り組むことができた(1) ・臨地実習だと実習指導者や教員からの指導を鵜呑みにしてしまうが,他学生の支援計画をみて,自分で良い点を見つけ取り入れる力を得ることができた(1) | |
技能の実践と評価を体験する | 実際の健康教育実践をイメージしながら自分なりの実践ができる | ・健康教育の実践を行い,実際にやるのならこうしようと自分なりに考えながら実践できたことが印象的だった(1) ・健康教育の実践をイメージして実施できたのは貴重な経験だった(1) |
健康教育実践を自己で振り返ることにより客観的に実践を評価できる | ・本当の健康教育実施をイメージしながら,健康教育の実践動画を撮影し,自分を客観的に振り返ることができた(1) ・健康教育の実践を自己評価することで,参加者の立場で改善点や良い点を見つけることができた(1) ・健康教育実践の評価を他学生と意見交換する中で,自分の良い点や改善点を見つけることができた(1) | |
他学生・教員とつながる | 教員からのフィードバックにより自己を振り返ることができる | ・臨地実習で教員から言葉で言われる助言は見落としがちだが,オンライン実習では文字として助言をもらうことで冷静に捉えることができた(1) |
教員に実習の相談が随時でき不安が軽減する | ・オンライン実習では,記録物の質問などをタイムリーに解決することができた(1) ・同時双方向型システムやメールで,毎日教員と会話や相談ができたことで,自宅で1人で実習をやっている不安が軽減した(1) | |
ディスカッションをすることで一人で実習を進めることの不安が軽減する | ・健康教育実践で自分だけ上手くいかなかったと感じていたが,他学生との振り返りで同じ気持ちだったことがわかり安心した(1) ・自宅で1人で課題を進めていくことに不安があったが,他学生と意見を言い合う場があったことで安心した(1) |
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時間的な余裕を活用する | 時間があることで実習にじっくり向き合い取り組める | ・臨地実習では通学にかかる時間を,オンライン実習では自分が実習時間中にできなかった内容を実施する時間にできた等(2) ・臨地実習では目の前にある課題を乗り越えることに必死になるが,オンライン実習では考える時間が多くじっくり考えることができた等(3) ・オンライン実習では1人で考える時間が多く,保健師としての価値観や保健師像をじっくり振り返ることができた(1) ・カンファレンスの内容を検討する時間が設けられていたことで,自分の考えをまとめて客観的に考えることができた(1) |
記録作成に時間がかからず実習内容を熟考する時間に充てられる | ・臨地実習では記録が手書きのため時間がかかるが,オンライン実習ではパソコンで記録を作成するため文字を打つのが速く計画の質を高めることができた(1) ・パソコンで記録作成するのは,間違えた時にすぐに戻ることができ,より中身を考えながら進めることができた(1) ・パソコンでは記録作成に時間をかけないで済んだため,予習や復習に時間を充てることができた(1) | |
移動時間が不要で学習時間をつくることができる | ・臨地実習では通学時間がかかるが,オンライン実習では自宅ですぐに記録作成に取り掛かれたため,時間を上手く使うことができた(1) ・通学時間がないため,計画立案や情報収集,記録整理などの時間に充てることができた(1) ・通学時間がないため,実習時間終了後も,更にやりたいところをそのまま続けることで,時間を有効に使うことができた(1) | |
時間に余裕があり精神的余裕が生まれる | ・臨地実習では睡眠不足になりやすいが,オンライン実習では睡眠時間がとれて,精神的な余裕がうまれた(1) ・臨地実習では事前課題があり土日もリフレッシュする時間がとれないが,オンライン実習では記録に十分時間がとれ精神的な余裕が持てた(1) ・オンライン実習では記録作成に時間をかけずに済んだため,予習や復習に余裕を持って取り組むことで精神的に良かった(1) | |
自分のペースで実習を進める | 自分一人で支援計画を考えることにより支援計画の立案に集中できる | ・自分1人だけでの支援計画に慣れてくれば,一人で行うことが捗ることもあった(1) ・これまでグループで計画立案していたことが,一人で実施することになったため,他学生に頼ることなく集中して実施できた(1) |
自分のペースで実習が進められ自分に必要なことに時間をかけられる | ・自分のペースで実習できたため,自分が苦手な部分を調べより苦手なところに時間を充てることができた(1) ・1つのことに集中する時間があったため,自分でスケジュールを微調整しながら進めることができた(1) | |
自宅ですぐに資料を参照できることで自分の疑問をすぐに解消できる | ・臨地実習では持参できる資料に限界があるが,オンライン実習では必要な教科書などが手元にあるため,すぐに調べることができた等(2) ・臨地実習では疑問はメモを取り後から調べていたが,オンライン実習では疑問を抱いた時にその場で調べて解決することができた(1) | |
自宅で資料をすぐに調べることができ支援計画の質を高められる | ・オンライン実習では手元にある授業資料を活用することで,制度や根拠を踏まえた計画書を作成することができた(1) ・乳幼児健診の計画を手元にある小児看護の教科書を活用して発達段階に準じた計画を立案できた(1) |
このカテゴリーは,オンライン実習で提示された,構造化された教材により事業や事例に対する理解が深まった体験を意味するものであった.
学生は,教材を通して多様な自治体の活動を視聴することで〈資料で様々な自治体の活動・事業を知ることができる〉と感じ,さらに,事業の背景や経過が整理されていることで〈情報が整理された資料であったことにより理解しやすくなる〉と感じていた.また,紙上事例を使用したことで,重要な情報を見落とすことなく何度も確認できることから〈情報が整理された紙上事例だからこそ事例にじっくり向き合える〉と感じていた.また,臨地実習では,学生毎に担当する対象者が異なるが,オンライン実習では,共通事例という教材を使用して支援計画を立案したことで,〈共通事例の支援計画立案に取り組むことにより多角的な視点に気づく〉体験をしていた.
2) 【支援計画を他学生と共有しディスカッションする】このカテゴリーは,学生同士で支援計画を閲覧する時間を設けたり,それを基にディスカッションをする時間を十分に設けたりすることで,学生の学びがより深まった体験を意味するものであった.
学生は,自分の支援計画を他学生と共有し,さらにディスカッションの機会を何度も設けることで〈他学生とのディスカッションにより完成度の高い支援計画を立案できる〉,〈支援計画に関する他学生とのディスカッションにより自分の気づけない点に気づく〉と感じていた.また,臨地実習であれば,担当する対象者が異なるため,他学生の支援計画を見る機会はないが,オンライン実習では共通事例を使用し,お互いの支援計画を見合うことが可能となったことで,〈他学生の支援計画を確認することにより自己の計画との相違に気づく〉体験をしていた.
3) 【技能の実践と評価を体験する】このカテゴリーは,臨地での健康教育の実践は行えなかったものの,オンラインで健康教育の企画,実践,評価を行った経験をとおして,学生が公衆衛生看護技術を体験できた満足感を意味するものであった.
学生は,これまで健康教育の計画立案を実施した経験はあったが,実践は臨地で行う予定であった.臨地で実施できなくなったため,事例を基に計画立案し,自宅で媒体を作成し,実際の場面を想定しながらシミュレーションを行った.学生はこの経験から〈実際の健康教育実践をイメージしながら自分なりの実践ができる〉体験をしていた.さらに,シミュレーションした健康教育を動画で撮影し,振り返りを行うことで,〈健康教育実践を自己で振り返ることにより客観的に実践を評価できる〉体験をしていた.
4) 【他学生・教員とつながる】このカテゴリーは,オンラインでも他学生や教員とつながることが可能となり,それにより安心して実習できた体験を意味するものであった.
例年,公衆衛生看護学実習は巡回指導であるため,学生は巡回指導時に質問をすることが多かった.オンライン実習では,非対面による相談体制を提示していたことから〈教員に実習の相談が随時でき不安が軽減する〉体験をしていた.また,オンラインで他学生と話す機会を設けたことで〈ディスカッションをすることにより一人で実習を進めることの不安が軽減する〉体験をしていた.
さらに,臨地実習での教員からの助言は口頭によるやりとりが多く学生は聞き逃してしまうことがあるが,オンライン実習では,毎日必ず,教員からの支援計画や日々の実習記録などのフィードバックを文字として行っていたため,〈教員からのフィードバックにより自己を振り返ることができる〉体験をしていた.
5) 【時間的な余裕を活用する】このカテゴリーは,オンライン実習により,時間的余裕が生まれ,その時間を実習に充てることで,実習の質が向上した体験を意味するものであった.
学生は,オンライン実習に変更となり,本来移動時間であった時間を実習時間に充てることが可能となり〈移動時間が不要で学習時間をつくることができる〉体験をしていた.また,オンラインであったため実習記録は手書きではなくパソコンで記載することになり,記録にかかる時間が短縮されたことで〈記録作成に時間がかからず実習内容を熟考する時間に充てられる〉体験をしていた.そして,これらの時間的な余裕が生まれたことで〈時間があることで実習にじっくり向き合い取り組める〉体験をしていた.さらに,このように時間的な余裕が生まれたことで,〈時間に余裕があり精神的余裕が生まれる〉体験をしていた.
6) 【自分のペースで実習を進める】このカテゴリーは,オンライン実習により,学生が自分のペースで実習を進められる内容が多くなったことで,実習の質が向上した体験を意味するものであった.
例年の臨地実習では,家庭訪問の支援計画や健康教育の実施計画は実習先毎に他学生と協働で立案してきた.オンライン実習に変更となったことで,学生は他学生に頼ることなく,自分一人で立案することになった.その結果,〈自分一人で支援計画を考えることにより支援計画の立案に集中できる〉体験をしていた.また,自分一人で実習を進めることでスケジュール調整が可能となり,〈自分のペースで実習が進められ自分に必要なことに時間をかけられる〉体験をしていた.そして,学生自身が苦手な部分を資料で調べる時間を確保できたことで,〈自宅ですぐに資料を参照できることで自分の疑問をすぐに解消できる〉体験をしていた.さらに調べた内容を支援計画に活かすことが可能となり〈自宅で資料をすぐに調べることができ支援計画の質を高められる〉体験をしていた.
本研究では,COVID-19流行下のオンラインによる公衆衛生看護学実習において,学生が有意義と意味づけた体験として6のカテゴリーが明らかになった.以下,6のカテゴリーの考察を述べ,これらを踏まえたオンライン実習のあり方について述べる.
1. 学生が有意義と意味づけた体験本研究では【情報が整理された多様な教材で学ぶ】が明らかになった.安酸(1996)は,学生が実習経験の中から「臨床の知」を学ぶ素材として,実習場面の教材化が重要としている.さらに教材化は,学生がクライエントやその家族,あるいは医療従事者との関わりの中で経験した事実や現象の中から,教員が典型的で具体的なものを素材として切り取る作業であると述べている.臨地実習では,学生は多くの体験から様々な情報を得て,そこから多くを学ぶことが可能である.一方で,臨地実習では学びに繋がる事実や現象が数多く生起し,さらに系統的に順序性に沿って提示されることは少ない.そのため,学生だけで学びに繋げることは難しく,教員や実習指導者の支援が必要となる.オンライン実習では,実習目標の達成に向けて事象の示す意味が明確である教材を教員が意図的に選択し,さらに学生が理解しやすい順序性を考慮して提示することが可能であった.このことから,学生は〈情報が整理された資料であったことにより理解しやすくなる〉体験が可能になったと考えられる.さらに,臨地実習では実習先が限られることから体験できる活動や事業に限界があるが,オンライン実習では多様な自治体の活動を学ぶことで,〈資料で様々な自治体の活動・事業を知ることができる〉という学びの幅が広がる体験ができたと考えられる.また,本研究では【支援計画を他学生と共有しディスカッションする】が抽出された.小池(1991)は,カンファレンスのもつ教育的意義について,異質な経験や能力を持つグループメンバーと討議し,学生個々の看護を充実させるためと述べている.本研究においても,〈他学生とのディスカッションにより完成度の高い支援計画を立案できる〉,〈支援計画に関する他学生とのディスカッションにより自分の気づけない点に気づく〉が明らかになった.このように,学生は他学生とのディスカッションを通して新たな視点に気づくことが出来たと考えられる.
次に,学生は【技能の実践と評価を体験する】を体験していたことが明らかになった.原田(2006)は,臨地実習における学生の達成感に影響する要因として,対象者との関わりと自分自身に関することの2つの要因があることを明らかにしている.さらに自分自身に関することとして,自分自身の努力や成長が達成感につながると述べている.本研究においても,学生は〈実際の健康教育実践をイメージしながら自分なりの実践ができる〉体験をしていた.オンライン上で架空の事例を対象とする困難な状況において,対象を想像しながら計画を立案し,シミュレーションを行い,評価する経験は,学生にとって意義があったと考えられる.架空の事例を対象としたため,対象者との関わりによる達成感を得ることが難しい状況にはあったが,学生は公衆衛生看護技術を実践できた体験そのもので満足感を得ることができたと考えられる.
さらに,本研究では〈教員に実習の相談が随時でき不安が軽減する〉や〈ディスカッションをすることで一人で実習を進めることの不安が軽減する〉などの【他学生・教員とつながる】が明らかになった.坂本ら(2019)は,実習前に抱いていた不安を解決できたのは,「教員」「実習指導者」「患者・家族」「学生・メンバー」「その他」であることを明らかにしている.臨地実習であれば,同じ実習先の学生や実習指導者,教員などに直接相談が可能である.さらに,実習前後の時間や移動中などで気軽に相談が可能であることが多い.しかしながら,COVID-19流行下のオンライン実習では,実習指導者や教員に直接指導を受ける機会がなく,さらに他学生と交流することも難しい状況にあった.学生が相談をしたい時は,そのための時間や手段が必要な状況にあり,通常の臨地実習よりも負担や不安は大きかったと想像される.そのため,ディスカッションやカンファレンスを通して意図的に他学生と交流する時間を設け,さらに手段を提示し,他学生や教員と連絡が取り合える状況にしたことは大きな意義があったと考えられる.
最後に,本研究では,【時間的な余裕を活用する】が明らかになった.秋庭ら(2022)は,学生の実習意欲を阻害する要因として,限られた時間内での看護展開や課題過多があると述べている.本学における公衆衛生看護学実習も,県内の各自治体での実習を予定していたため,本来の臨地実習であれば,移動時間も含め,看護過程や課題に追われ時間的に余裕がない実習であったと想定される.しかし,オンライン実習で移動時間を確保する必要がなくなり,時間的余裕が生まれたことから,実習意欲を維持することができたと考えられる.さらに,学生は一人で熟考する時間が十分に確保できたことで,事例や課題にじっくりと向き合う時間や,保健師としての自らの価値観や保健師像を考える時間が得られたと考えられる.以上のことから,学生は〈時間があることで実習にじっくり向き合い取り組める〉体験をしていたと考えられる.さらに,本研究では,【自分のペースで実習を進める】が明らかになった.臨地実習では,実習プログラムに合わせて学生は行動することになるが,オンライン実習となったことで,自分のペースで課題に取り組むことが可能となり〈自分一人で支援計画を考えることにより支援計画の立案に集中できる〉体験ができたと考えられる.さらに,臨地実習では疑問があってもすぐに調べることは困難であるが,オンライン実習では,疑問があった際にすぐに調べられる環境にあった.このことにより,疑問を解決してさらに知識を深めたり,次の課題に進めたりすることが可能となり,〈自宅で資料をすぐに調べることができ支援計画の質を高められる〉体験をしていたと考えられる.自分一人で実習を進める時間があり,且つ疑問をすぐに調べることが可能な環境は,学生にとって意義があると考えられた.
2. オンライン実習におけるプログラムのあり方学生は,COVID-19の影響により,オンライン実習という未知の実習体験をすることになった.しかし,オンライン実習という限られた学習環境の中で,学生は全ての実習プログラムを終えることができた.学生が有意義と意味づけた体験から,オンライン実習におけるプログラムのあり方について述べる.
まず,構造化された教材を効果的に取り入れることが必要である.先述したとおり,学生が実習経験の中から「臨床の知」を学ぶ素材として,典型的で具体的なものを教材化する必要がある(安酸,1996).オンライン実習において実際の体験を教材化することは不可能であるが,学生が理解しやすい教材を意図的に選択し,順序性を考慮して提示することで学びの深化が期待できる.具体的には,単に活動の場面を提示するだけではなく,その場面が必要になった背景に関する説明や対象者の声などが取り上げられた教材を選択することが望ましい.このことにより,学生は事象が示す意味を明確に捉えやすくなると考えられる.さらに,これらの教材を学生の理解可能な順序で提示することが望まれる.また,多様な自治体の活動や事業を取り入れた教材を意図的に選択することも必要である.このことにより,学生は多様な公衆衛生看護活動の展開を学ぶことが期待できる.そして,それまでに臨地実習の体験がある場合は,その臨地実習の学びや体験を想起させるような説明を教員が行い,体験を積み重ねることも効果的であると考えられる.さらに,塩見ら(2020)によると,臨地実習でしか学べないことに,保健師の熱意や姿勢といった現場を共有するからこそ感じられる学びがあるとしている.オンライン実習による限界はあるが,これらを可能な限り補うために教員の実践経験を踏まえた解説や,現場の保健師とオンラインで繋ぎディスカッションする機会を設けるなどの工夫が必要である.
次に,他学生とのディスカッションの時間を設けることが必要である.学生は,他学生とのディスカッションにより新たな視点に気づき,自己の学びに取り入れることで,自らの看護を充実させることができる(小池,1991).そのため実習プログラムは,個人で動画を視聴したり,支援計画を立案したりするだけではなく,オンラインを活用して他学生と共に学びが得られるようなプログラムを取り入れることが有用である.例えば,ディスカッションは複数回設け,毎回のディスカッションでは十分な時間を設けることが考えられる.また,1つの課題に対して中間でディスカッションを設け,その学びを踏まえてさらに課題の続きに取り組むことができるように,効果的なタイミングで設けることなどが考えられる.
また,オンライン上での健康教育の実践のように,企画・実践・評価の一連のプロセスを体験できる機会が必要である.臨地実習において,自分自身の努力や成長が達成感に影響することから(原田,2006),学生は実践をとおして努力することで,学びを得るだけではなく,オンライン実習であっても達成感や満足感を得ることが期待できる.具体的には,オンラインで企画立案を行い,その企画を基にオンライン上で実践し,さらに振り返りを行うPDCAサイクルを体験できるようなプログラムが望ましい.今後は,対象者との直接的な関わりは困難であるが,オンラインを活用して実習場と繋ぎ,オンライン上で実際の住民を対象にして実践を行えるような工夫も必要である.
さらに,オンライン実習では,学生が熟考できる時間が確保できるよう余裕のあるプログラム構成であることが必要である.具体的には,ディスカッションの前に自分の考えを予め纏める時間を設けるなど,自らの考えを整理する時間が重要である.さらに,必要な知識を調べる時間や課題に取り組む時間など,プログラムにそれらの時間を意図的に設けることで,学生にとって意義ある実習になることが期待できる.
最後に,オンライン実習では,学生が他学生や教員と繋がれる仕組みを設けることが重要である.渥美ら(2023)は,オンライン実習において,学生は実習方法に対する戸惑いや学びに対する不安を抱えていることを明らかにしている.このことから,学生が安心して実習に取り組めるように環境を整えることが必要である.具体的には,他学生と思いを共有できるように,ディスカッションの時間や頻度を十分に取り入れることが挙げられる.さらに,教員への相談は,メールや同時双方向型など複数の相談方法を用意し学生に明示しておくこと,気軽に質問できるように,随時相談だけではなく,予め用意した質問時間を提示しておくことなどが考えられる.よって,オンライン実習において,学生が安心して実習に臨めるように,他学生や教員が繋がれるような実習環境を構築することが重要である.
本活動報告は,一大学の保健師教育課程学生20名のうち6名の語りによって得られた結果である.協力を得られなかった学生は有意義な体験をしていない可能性や,他の体験をしていた可能性があり,一般化するには限界がある.さらに,オンラインによる実習プログラムは多様であり,プログラム内容によって異なる結果が出る可能性は否定できない.よって,今後は多様な対象や実習プログラムを対象とする必要がある.
オンライン実習において,学生が有意義と意味づけた体験として,【情報が整理された多様な教材で学ぶ】【支援計画を他学生と共有しディスカッションする】【技能の実践と評価を体験する】【他学生・教員とつながる】【時間的な余裕を活用する】【自分のペースで実習を進める】が明らかになった.今後,感染症や災害等によりオンライン実習に変更せざるを得ない状況が生じた際,本研究の結果を踏まえ学びの深化を図り,学生が安心して実習に臨めるよう実習プログラムを構築する必要がある.
本研究に協力いただいた研究協力者の皆様に感謝申し上げます.
本研究は,東北福祉大学研究費補助を受けました.
本研究における利益相反は存在しない.