2025 年 9 巻 1 号 p. 12-16
第12回一般社団法人全国保健師教育機関協議会(以下,全保教)秋季教員研修会は『保健師として働き続けるためのキャリア形成の支援』をテーマに,2024年10月28日(月)開催した.北海道札幌市の札幌ガーデンパレスを会場に,全保教会員校の皆様に加え,現場の保健師を含む86名の参加を得た.
臺有桂全保教会長からは,日ごろの協力への感謝の言葉があり,本研修会に向けての挨拶があった.基礎教育では保健師としての基盤を作り,現場にシームレスにつないでいくことになるが,コアコンピテンシーは地域につないでいくときの軸になっていくと思う.現在,保健師基礎教育で何を押さえるかの検討が進み,モデル・コア・カリキュラムを作成している.これらのもの全てが連動して,教育と現場がキャリア支援を行っていくことにつながっていくものと考える.教育と現場とともに,学びの多い研修となることを祈念するとの挨拶があった.
少子高齢化や急激な人口減少,地域力の脆弱化,感染症や災害等の健康危機の発生と地域の健康課題は複雑困難化しており,それらに対応できる質の高い保健師の養成が求められている.保健師基礎教育において,マネジメント力や施策化・政策形成能力などをいかに強化していくのかが問われ,また,地域においては,経験の少ない保健師や多様な背景を持つ保健師の教育が必要な現状にある.このような中,保健師の専門性を備え,アイデンティティをもった保健師をどのように養成して地域に定着させていくのか,多様な背景をもつ保健師のキャリア形成をどのように支援すると良いのか,教育と現場の双方で検討する必要がある.本研修では,将来を見据えた保健師の生涯学習を考える機会となることをねらい,質の高い保健活動を展開するために,保健師基礎教育から現任教育に至るまでのキャリア形成の支援について検討することとした.基礎教育で保健師を養成する立場,市町村の立場,都道府県保健所の立場からキャリア支援について各々発表をして,検討を行ったので,その報告をする.
天使大学看護栄養学部 小澤涼子
天使大学は,「愛をとおして真理へ」の建学の精神のもと,看護師,保健師,助産師の教育を歴史的に継続しており,2016年度からは,大学院に保健師教育課程を置いている.本学における学部でのキャリア形成,大学院保健師コースでのキャリア形成,学生と保健師がつながるキャリア形成について報告する.
1. 学部でのキャリア形成学部では,「人間形成とキャリアデザイン」の科目をとおして,自己理解を深め主体的に学ぶ力を育て,将来につながる専門職の基盤をつくっている.2年次と3年次には,先輩の講話を設けており,保健師として働く先輩の仕事の実際やキャリアについて触れ,職業選択を考える機会となっている.
2年次の地域看護学の中では,自治体保健師の活動の実際について特別講義を受け,3年次のヘルスプロモーション活動論(選択科目)では,講義を受けた自治体に出向いて現地講義を受けている.事前学習で地域の特性を捉え,現地で保健事業に参加して保健師の活動や住民とのかかわりの実際に触れている.これらをとおして保健師の魅力をより具体的に感じ,保健師コース選択の動機の一つとなることも多い.
この他,正課外の活動になるが,札幌市東区との連携協定による活動に参加して,地域で健康教育を実施している.活動に関心を持った学生が,学年を超えてつながる機会になっており,住民と直接交流しながら地域に暮らす人々の健康を理解し,支援することの意味を体感する機会となっている.
また,保健師コースのオープンキャンパスでは,大学院生が保健師を目指した動機や保健師コースでの学びを伝え,交流を行なうことで,学部生の具体的な理解を助けている.また,道立保健所のインターンシップに参加する機会を得ており,保健所ごとの魅力あるプログラムや保健師の仕事の魅力に直接触れることが,保健師を選択するきっかけとなっている.
2. 大学院保健師コースでのキャリア形成大学院保健師コースでは,2年間,講義と実習を段階的に積みあげ,同じ地域で公衆衛生看護実習に取り組み地域ケアシステムの構築,施策化を実習地とともに検討し,公衆衛生看護の一連の展開を学び,学習を深化させている.
1年次生と2年次生がともに学び高めあう機会を意図的に設定している.入学時に目標達成シートを発表して自己紹介をする場面に2年次生,教員が一緒に参加する.地区アセスメントや家庭訪問演習等に2年次生が参加して助言をする.合同ゼミでは,文献クリティークや研究テーマの検討等を行っている.このような場面は,ピアで学び合う場であるとともに,2年次生は学びをアウトプットして保健師を目指す自分を確認する機会となっている.
教員の院生との個別面談は,1年次は実習前に,2年次は,研究計画提出後と大学院修了前に実施している.その際には,修了時到達目標の達成度を自己評価して,自身の成長と今後の課題を確認する場となっている.また,就職や将来のキャリアについても考える機会となっている.
公衆衛生看護実習は,2年間同じ実習地で実習を積み上げている.1年次の公衆衛生看護活動実習,公衆衛生看護管理実習Iでは,保健活動の実践をとおして地域の理解を深め,健康課題を焦点化して公衆衛生看護活動計画を作成する.2年次の公衆衛生看護管理実習IIでは,1年次に焦点化した地域の健康課題を基に,健康課題解決に向けた地域ケアシステムの構築,施策化を実習地とともに検討し,公衆衛生看護の一連の展開を学んでいる.2年間の実習をとおして,住民や関係者,関係機関の話を聴かせてもらう場を複数回設けている.生の声を聴くことで,地域の理解を深め,めざす地域のビジョンを描き,そこでの保健師の責務を実践的に体得することにつながっている.これらをとおして目指す保健師像を描く機会になっている.
公衆衛生看護課題研究をとおしては,自ら見出した問いに対して,公衆衛生看護を実践する専門職として探求し続ける力を修得することを求めている.自分のためではなく,地域のための研究になっているのかを常に問うている.研究を遂行するためには,研究を計画的に遂行するマネジメント力,関係者との調整力や自身のコントロール力,分析力,論理的思考に加えて説明力も必要となる.また,関わる全ての人に敬意をもって接する倫理的な能力,人間力,コミュニケーション力等,研究のプロセスをとおしての学びは,保健師として働く上で非常に大きなものと考える.
3. 学生と保健師がつながるキャリア形成学生と現場の保健師がつながるキャリア形成として,2024年度は,公衆衛生看護管理実習と町・保健所保健活動連絡会の協働による学びの機会として研修会を開催した.2年次生の地域ケアシステム構築の実習成果を報告するとともに,管内保健師からは地域の健康課題の報告があり,学生も含めたキャリア別のグループで意見交換を行った.実習地以外の保健師の声や実際の展開の難しさなどを学ぶ機会となり,異なる自治体やキャリアの双方向での学びとなっていた.
保健師の集いは,修了生や卒業生,保健師コースの院生,教員が交流し,学習する機会となるように,年数回を目標に開催している.年齢や職歴,地域を超えた保健師同士でつながり,刺激を受け,自分を確認する機会になっている.
基礎教育から保健師の面白さに触れ,保健師を目指す選択をする.そして,保健師課程で学ぶ中で,目指す保健師像,専門職として歩むキャリアデザインを描く.保健師基礎教育から現任教育への連動は,実習等をとおして住民の声や地域の課題から共に考え双方向のキャリア発達の機会へつないでいく必要がある.保健師としていきいきと働けるように,現場と連動して,キャリア形成に向けて支援していきたいと思う.
枝幸町役場保健福祉課参事・統括保健師・子ども家庭センター参事 植村由佳
1. 枝幸町の概要と現任教育体制枝幸町は,北海道の北に位置するオホーツク海に面した漁業と酪農業を基幹産業とする人口7,200人,高齢化率36%の町で,面積は札幌市と同じ位,札幌からは300 km,車で5時間半の距離にある.保健師8名が地区分担と業務分担を併用して活動している.
現任教育体制は,OJTとOff-JTがあるが,Off-JTでは,宗谷管内市町村保健師研修会が歴史的にも長い期間定期的に行われている.その他にも国民健康保険団体連合会(以下,国保連合会)北海道保健活動連絡協議会の研修,日本看護協会(以下,看護協会)・保健師長会・全保教の三団体の研修等がある.遠方で全員が研修会に参加するのは難しい状況にあるため,管内の研修会は貴重な機会となっている.また,オンラインによる研修は,遠方からの参加を容易にしてくれている.今回は,OJTの保健師教育プログラムに焦点を当て報告する.
2. 新任保健師プログラム新任保健師プログラムは,平成25年に北海道で作成したマニュアルを基に枝幸町独自でプログラムを作成した.
その背景には,大学が増えて多様な教育背景で学び方が違っていることに気づき,新任教育で具体的なプログラムを作成して指導する必要性を感じていたことがある.
町では,枝幸町の目指す保健師像を作成して提示している.新人は,プロフィールにより,自分の好きな分野,苦手な分野,自分の長所と短所,実習で経験した事例,実習で体験したこと,なりたい保健師等を確認する.自分の強みや伸ばしたいところ,目指す保健師像など,個々人の特徴を踏まえて,現任教育プログラムに適応させ,各自が私のキャリアプランを作成している.教育計画では,月毎に,主担当,それ以外の業務と具体的な内容を示し,達成していけるように支援している.
年に数回,プリセプターと新任保健師の面接を設定して,達成を確認して修正を加え,キャリアを積み上げている.2年目以降は,自分のキャリアラダーを確認して,面接を行い,各自の成長と課題を確認して共有した上で,キャリアプランに取り組んでいる.また.ロールプレイを度々行い,具体的な面接場面を学習する機会を設けている.プリセプターが,住民役を演じ,助言する姿をとおして,プリセプターの成長を確認することができ,新人教育ではあるが,他の保健師達の教育にもなり,その成長を確認する場にもなっている.
新任期のキャリア支援では,保健師という仕事に魅力を感じて続けたいと思ってもらうこと,町や職場に慣れて,個別支援を大事にしてもらいたいと思って指導している.
3. 中堅期・管理期のキャリア支援中堅期は,効率化も大切に,全ての経験を仕事に活かせる時期だと思う.ワークライフ・バランス,ワークライフ・インテグレーションを考える時期で,ワークライフイベントや経験を仕事に活かせる.自信をもって,安心して,失敗しても良いので,やってきたことを振り返り,自分のことを受け止めてもらいたい.個別から地域,事業化・施策化,PDCAを意識して積みあげてもらいたいと思っている.
管理期は,町民のために保健師職を守っていかなくてはならない.町民にとって保健師は必要な職種であり,保健師職を守るために覚悟や決断,責任感が必要となる.部下の成長を喜びとして栄養としてもらいながらやっている.
4. 教育機関に臨むこと教育機関にお願いしたいことは,保健師の魅力を伝えてもらいたい.そして,卒後も可能な範囲でフォローしてもらいたい.学生だけなく現場の保健師の教育の場(研修等)を提供してもらいたい.また,卒業生や保健師達は,話すことで自分自身のキャリアを考えることができるので,そのような場を作ってもらいたい.実習は実習生だけでなく指導者も育てる場と思っており,統括保健師と意見交換する等,現場と教育とが協力してやっていけると良いと思う.
順調にキャリアを積むためには,町だけでは限界があるので,保健所や近隣市町村,看護協会や国保連合会,教育機関等と協力しながら,お互いに育て合っていきたい.小さな町では同じ立場の保健師がいないので,ピアで相談できる場を自分の町以外でも作ってもらいたいと思っている.
北海道保健福祉部地域医療推進局医務薬務課課長補佐(看護政策)統括保健師 鹿野令子
北海道における保健師現任教育,北海道として保健師のキャリア形成で大切にしてきたこと,今後の課題について報告する.
1. 北海道の特徴広大な北海道は,市町村が179,道立保健所は26か所,加えて札幌,函館,旭川,小樽の市設置の4つの保健所がある.第3次医療圏は6圏域,第2次医療圏は21圏域で,移動は,道南や道北は,各々300 km 4~5時間を要し,道東へは450 km 6~8時間を要する.また,広さに加えて積雪寒冷の地域であることも北海道の特徴である.北海道は,複数の県分の規模を俯瞰して活動している状況である.道立保健所26か所に,保健師は現在約260人で,約30人の欠員がある,道立保健所の経験年数5年以下の保健師が44%で,年齢構成ではベテランが多いように見えるが,経験の少ない保健師が多く,今後の人材育成の課題となっている.
2. 道立保健所の保健師配置経過と人材育成指針道立保健所は,平成10年の組織改正により,保健所は45か所から26か所と支所となり,保健師配置は,平成16年に業務別分散配置となった.しかし,保健師の現任教育などに課題が生じ,保健師のあり方を検討し,平成26年より,地区分担制,保健師集約配置に転換した.
人材育成に関しては,平成18年「北海道保健師活動指針」及び「北海道保健師現任教育マニュアル」を作成した.令和元年には,必要な見直しを行い,「北海道保健師人材育成基本指針」及び「統括保健師設置要綱」を作成した.現在は,これらを基に,キャリアパス,キャリアラダー等を活用して人材育成している.
「北海道保健師人材育成基本指針」では,北海道保健師に期待される役割と人材育成の基本的考え方の中で,北海道保健師の現状と課題,目指す姿,求められる能力が提示され,必要な体制と人材育成ガイドラインとして,①統括的な役割を担う保健師の配置,②地区担当制による地区活動の推進,③北海道保健師キャリアラダー,④北海道保健師キャリアパス,⑤成長を支える仕組みや体制が示されている.今後に向けて,効果的な研修体制の再構築に向けた検討を継続することとしている.
3. 現任教育の進め方とキャリアラダーの活用現任教育体制と整備としては,①統括保健師の配置,②現任教育推進会議の設置,③保健指導業務連絡会の実施として事例管理や地区管理,事例検討等によるOJTの充実を図ることを挙げている.新任保健師の育成では,キャリアレベルA1の新任期は担当指導者を決め,各期別目標に沿って個別プログラムを作成,定期的に達成度を評価するとされ,必要時市町村にも支援する.また,管内市町村のニーズも聞きながら保健師の資質向上に向けた研修会を実施している.
実際の現任教育では,北海道保健師のキャリアパス,キャリアラダーを活用して保健師を育成しており,キャリアラダー自己評価表,私の仕事ノート,異動毎の振り返りシート,キャリア面談を活用している.
4. 教育と行政の連携による北海道の取り組みと今後の課題北海道は,道庁が公衆衛生看護学実習の受け入れ調整を行ってきた経過があり,保健師は,自らが我がごととして実習に関わるという姿勢でやってきている.看護大学の急増により実習生が増えてきた頃には,効果的な実習のあり方を検討し,保健師として必要な実習ができるような提言をしてきた.
また,保健師教育機関の協力による研修として,保健師一人に対して保健師養成校の教員一人がついて,1年間をかけて研究に取り組むという研修を行い,平成10~19年の10年間,129名が指導を受け,その内9件が市町村との合同研究を行った.現場と教育が互いを知り,連携を強化するという意味で,現場の保健師にとっても,教員にとっても大きな意義があったと考える.
保健所と市町村の協働による活動として,事業や計画の立案,現任教育等を一緒に実施してきている.また,市町村・道の人事交流については,保健師の欠員もあり,実績が少ない状況にはあるが,実施を継続している.コロナ時には,市町村の保健師に大変お世話になった.道立保健所の保健師は,市町村に育ててもらっていると思う.保健所保健師は,市町村での学びを異動先の地域で,また,北海道全体の支援に活かすことができる.多くの市町村があり,共に活動していることは,北海道の強みであると考える.
人口は減少しているが,地域課題は複雑困難化している.今後に向け,保健師の人材育成指針の見直しが必要であり,多様な背景をもつ保健師の人材育成にはキャリアラダーの活用は重要である.人材育成指針の見直しについては,教育機関の協力も得ながら,実施していく予定である.
コロナ後,研修については再開してきているが,コロナ前と同じようにはできないと感じている.現在の保健師の状況と合わせて,研修を再構築することが必要である.
北海道は広域なので,危機発生時に一つ一つの保健所が対応できる力を備えていなくてはならない.コロナは流行の時期も状況も地域により大きく異なり,各地の特性に応じた活動が必要となった.現任教育においても,各々の保健所が,現任教育ができる体制,市町村を支援する体制を作っていく必要がある.そのために,本庁がどのような役割を担うことができるかを検討し,進めていきたい.
大学院生の実習をとおして,多くの住民や関係者と接点をもって声を聴くことや,実習の最後に施策化についての発表を聴き討議することが,現場の保健師にとっても新たな発見となることがある.
大学院生が実習の最後に,施策化について発表するが,現場の保健師として新たな発見となることもある.住民や関係者に学生がインタビュー等で関わるところで,現場の保健師が調整し,同行することもあり,地域の関係者とつながる機会になり,今後につながっていくところもある.現場の保健師も実習をとおして達成感や保健師のやりがいを再認識する機会になり,働き続けるモチベーションとなり,保健師の本質を気づき合う機会になっていると考える.
基礎教育で,保健師の魅力を伝えて送り出しているが,現場に出てギャップを感じることもある.住民として,保健師として,行政職として,大変さもあるが,魅力ある先輩達が,保健師は何をする人かを町の中で築いてくれて,ロールモデルとなっていた.自分自身も生活者として,地域で暮らし働き,地域になじみながら課題も見えてくる.住民と一緒に自分も成長している.保健師がどんな仕事をするのか,外に出てみて,他の保健師と話したりすることで見えてくる側面もある.自身が保健師としての魅力を確認しながら,それを伝えていくことが大切である.
広域な北海道で保健師を守っていくための現任教育では保健所,市町村,教育機関との連携,保健師同士の連携が重要である.広域で小規模市町村が点在する北海道において,このように地域で組織の垣根を越えて保健師が横のつながりで助け合っていくことがキャリア支援につながると考える.
保健師を選択し,専門的な学びを積み上げ,保健師として歩み続けていくために,基礎教育,市町村,保健所の相互のつながりの中で,キャリア支援が行われていた.広域な地域に点在する自治体をつなげ,住民の健康を守り,地域の力を引き出していく保健師を育てていくための体制を確立する必要性を再確認することができた.
保健師は何をする人なのか,今,地域で実施していることの意味,自身の学びや経験を可視化し様々な場面で確認して,目指す保健師に向かって成長していくことの支援が必要である.保健所,市町村,教育機関がつながり,支え合っていくことが保健師のキャリア形成を支援していく上で重要である.