現代社会学研究
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情報社会における身体性メッセージ
自己啓発セミナー現象再考
井上 芳保
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1993 年 6 巻 p. 81-105

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抄録

情報社会には、産業社会(モダン)との連続面と断絶面の二つがある。ソフトノミックスと言われているにも拘らず、過労死の多発など人間にとって抑圧的事態が発生している事実は禁欲的なエートスを基礎とするモダンの原理が情報社会においても相変わらず貫徹していることを意味している。だが、情報の産業化にはモダンを変質させる潜在的可能性がある。われわれは自己啓発セミナー現象の中にそのことをみてとれる。自己啓発セミナーはルサンチマン処理産業というモダンとの連続面以外に「目的―手段連関」を超える身体性文化というモダンとの断絶面からも捉えられる。セミナー参加者であってかつ傍観者的な「透明人間」でいることは不可能である。情報社会における社会運動を論ずるメルッチは、前言語的な身体性領域から発されるアラーム・シグナルに関心を払っている。われわれは身体性文化としての自己啓発セミナー現象にある二種の身体性メッセージの中にアラーム・シグナルを聞き届けうる。一つは人間にとって抑圧的な現代社会からの「解放」を求める参加者から聞こえ、今一つはセミナーに強い興味を持ちながら参加に踏み切らぬ「透明人間」の姿から聞こえる。「透明人間」は主観的動機はともあれ、客観的には心の商品化の動向に躊躇という形で抵抗している。このことは情報資本主義が人間性の一切を商品化しようとしても実際にはそうはならぬことを示している。

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