抄録
本稿の目的は、オホーツク海沿岸地域における近年の先史考古学の主要な成果と、将来への展望を整理することにある。この地域の研究を特徴づけてきた活発な国際共同調査によって、旧石器~古金属器時代にいたる詳細な編年体系の構築、解像度の高い地域間関係の復元などで大きな成果がおさめられてきた。その一方で、1) 後継者不足、2) 研究対
象地域の細分化、3) 文化人類学・言語学など近接する人文社会系の学問分野との連携不足、4) 考古学の最新の成果が博物館展示・活動にあまりむすびついていない、といった課題が顕在化してきている。このうちl) は社会・教育情勢と密接にかかわる問題であるが、北方考古学の戦略的な実践により2) ~4) の課題を解決することは不可能ではない点を、北千島・南カムチャッカの事例をもとに議論する。