2016 年 85 巻 3 号 p. 193-200
ニホンナシのほとんどの品種は自家不和合性を有するため人工受粉が必須で,商業的な果実生産のためには摘果が必要である.これらの作業は季節的制約があるため農家にとって大きな負担となっており,無受粉で 20%程度の着果を誘起することが理想である.本研究では,‘幸水’の花への Cu2+ および Fe2+ 処理が理想の着果を誘起することを明らかにし,これは自家花粉管伸長,果実内の種子形成,in vitro での花粉発芽試験の結果より,単為結果であると結論した.Cu2+ の効果は,Cu2+ を含むボルドー液でも同様に認められ,着果誘起の処理適期は萌芽期から開花期までと長かった.また,処理の効果には年次間差があり,ボルドー液は他家受粉した花の着果を抑制しなかった.ボルドー液によって着果した果実の成長は,ジベレリン(GA)ペーストおよび合成サイトカイニン(CPPU)の単用,併用および混用処理によって改善された.GA ペースト処理は,果実肥大や熟期促進を目的として実用化されており,ボルドー液は黒斑病・黒星病防除のために開花前に使用できる登録殺菌剤である.したがって,ボルドー液を用いた着果誘起は,ニホンナシ‘幸水’における着果管理の大幅な省力につながる技術と考えられた.