The Horticulture Journal
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原著論文
トルコギキョウにおける可溶性糖質の同定と開花に伴う花弁細胞内の糖質濃度の変動
乘越 亮木幡 勝則湯本 弘子後藤 理恵市村 一雄
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2016 年 85 巻 3 号 p. 238-247

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抄録

開花に伴う花弁の成長は細胞の肥大に依存している.トルコギキョウにおいて花弁細胞の肥大における可溶性糖質の役割を理解するため,その構成糖質を同定し,開花に伴う細胞内における濃度の変動を調査した.グルコース,フルクトース,スクロースおよびミオイノシトールに加えて,1H-NMR によりシクリトールの一つである d-ボルネシトールが同定された.d-ボルネシトールは葉と茎において主要な構成糖質であった.シクリトールはアルファルファにおいて転流糖質であることが知られているため,師管液を分析した.しかし,転流糖質は d-ボルネシトールではなく,スクロースであることが示唆された.開花に伴い,花弁中のグルコースとスクロース含量は増加したが,d-ボルネシトールとミオイノシトール含量はほぼ一定であった.フルクトース含量は非常に低かった.グルコース,スクロース,ミオイノシトールおよび d-ボルネシトールは主として液胞に分布したが,スクロースは細胞質にも分布した.開花した花弁では,液胞中のグルコースとスクロース濃度は 50 mM 以上に増加した.シンプラストとアポプラストにおける無機イオン濃度は開花に伴い上昇しなかった.花弁におけるシンプラストとアポプラストの浸透ポテンシャルは開花した段階のほうが蕾の段階よりも低く,この違いはグルコースとスクロース濃度の上昇に因っていた.以上の結果から液胞におけるグルコースとスクロースの蓄積がシンプラストの浸透ポテンシャルを低下させ,これが開花に伴う細胞肥大に関与していることが示唆された.一方,ボルネシトールの浸透圧調節物質としての貢献は限定的であることが示唆された.

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