The Horticulture Journal
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原著論文
ヤブツバキ‘千年藤紫’の紫色花色発現にはアルミニウムイオンが関与する
谷川 奈津井上 博道中山 真義
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2016 年 85 巻 4 号 p. 331-339

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抄録

野生ヤブツバキの花色は通常赤色である.しかし,稀に紫色の花を咲かせるヤブツバキが発見されている.この紫色花色は園芸的に価値のある特性であるものの,その発現は非常に不安定である.前年の春に見事な紫色の花が咲いていても,翌年は赤い花に戻る場合もある.本研究では,ヤブツバキ品種‘千年藤紫’の赤,赤紫,紫色の花を使い,紫色発現に関わる要因を調べた.花弁表皮細胞を観察すると,赤色花弁は赤い細胞のみで構成されていたのに対し,赤紫や紫色花弁では赤と紫色の細胞が混在していた.多くの紫色の細胞で青黒い粒子が観察された.‘千年藤紫’の主要アントシアニンは,一般的な赤いヤブツバキの主要アントシアニンであるシアニジン 3-グルコシドおよびシアニジン 3-p-クマロイルグルコシドであった.花色間でアントシアニン含有量に大きな違いはみとめられなかった.また,コピグメントになり得るフラボン,フラボノールおよび桂皮酸誘導体類はほとんど検出されなかった.花弁搾汁液の pH,および花弁に含まれる Ca,Mg,Mn,Fe,Cu,Zn の含有量にも,花色間で大きな違いはみとめられなかった.一方,Al の含有量には有意な差がみとめられ,赤紫および紫色花弁の Al 含有量は,それぞれ赤色花弁の 4–10 倍および 14–21 倍であった.pH 4.8 に調製したシアニジン 3-グルコシド溶液は透明な薄赤色であった.これに Al を添加すると紫色が増し,花弁の紫色の細胞で観察された粒子と類似した沈殿物の生成が確認された.これらの調製溶液と花弁の吸収特性にみとめられた違いは,赤紫および紫色花弁では赤と紫色の細胞が混在していること,さらに Al をキレートする他の化合物の影響や,実質的な液胞内の Al 濃度などによって生じると推測している.以上の結果から,‘千年藤紫’の紫色花色は,アントシアニンによる Al のキレート結合により発現すると結論した.‘千年藤紫’と同様の不安定な紫色を発色する他のヤブツバキの花色においても,アントシアニンによる Al のキレート結合が関与していると考えられる.

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