抄録
ブドウ‘巨峰’の加温ハウスにおける盛土式根域制限栽培における,より簡便で環境負荷を低減できる節水型の灌水制御法について検討した.単独盛土式における盛土内の土壌水分の分布は不均一であり,また,ハウス内のテンシオメータの設置位置によっても土壌水分の変動状況に大きな差がみられたことから,多点測定を行わない,少数箇所のテンシオメータによる水分管理は困難と考えられた.日積算全天日射量(x:MJ・m−2・day−1)と樹体の日吸水量(y:L・day−1/樹)の間には,密接な比例関係,y = 0.250xが認められた.樹体生育の変換点と考えられる生育初期,開花期,幼果期および成熟期の晴天日の樹体吸水量は,生育ステージが進むに伴って増加した.葉面積1 m2当たりの晴天日の日平均吸水量は,開花期1.3 L,幼果期1.0 L,成熟期1.3 Lで,幼果期に減少し,成熟期に再度増加する傾向であった.また,曇雨天日の日吸水量は,生育ステージが進んでも増加はみられなかった.生育初期は1 L・day−1/樹,幼果期は8 L・day−1/樹,成熟期の晴天日は6.0 L・day−1/樹,曇雨天日は1.0 L・day−1/樹で管理したところ,pFセンサーを使用した場合の年間総灌水量と比較して46~47%の節水が図られ,日射量による灌水調節を行なった成熟期では,排水が大幅に減少して環境負荷軽減が図られ,高品質な果実生産ができた.この事例を踏まえ,生育初期は基準吸水量×0.3,幼果期は基準吸水量×2.0,成熟期の晴天日は基準吸水量×1.0~1.2,曇雨天日は基準吸水量×0.4という灌水プログラムを提案した.