園芸学研究
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総説
  • 森谷 茂樹, 清水 拓, 岡田 和馬, 國久 美由紀, 寺上 伸吾, 堀 礼人, 澤村 豊
    2024 年 23 巻 3 号 p. 163-178
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/09/30
    ジャーナル フリー

    リンゴ(Malus × domestica Borkh.)は我が国で2番目に大きな生産量を持つ果樹であり,多くの公設研究機関や民間育種家によって交雑育種が行われている.他方,研究の進展に伴って,多くの重要形質においてDNAマーカーの開発が進められている.交雑育種においてDNAマーカーは交雑親,および後代実生の選抜に利用することができ,育種の効率化に貢献する.農研機構ではDNAマーカーを積極的に活用したリンゴ育種を推進しており,本総説はこれまでに得られている知見を総覧することを目的とする.農研機構においてDNAマーカーを利用している形質は,黒星病(Rvi6),斑点落葉病(Alt)に対する病害抵抗性,および果皮の着色(MdMYB1)や果肉の食感など(MdACS1, MdACO1, MdPG1)の果実品質に関する形質,さらに省力栽培適性を有するカラムナー樹形(Co)である.また,自家不和合性(Sハプロタイプ)や致死遺伝子(l = MdPHYLLO)については選抜に用いることはないが,DNAマーカーを用いて育種素材の遺伝子型を確認している.本総説では,これらの遺伝子型を検定するためのDNAマーカーについて,背景となる科学的知見,および遺伝子型の検出方法,そして選抜の結果として期待される表現型への効果について述べる.また,主要なリンゴ品種,および育種素材・系統の遺伝子型について一覧にして示し,その管理用プログラムの開発について述べる.さらに,特定の遺伝子に連鎖するDNAマーカーでの選抜がもたらす,他の遺伝子に対する間接的選抜の効果についての議論を行う.

原著論文
土壌管理・施肥・灌水
  • 中村 嘉孝, 田中 哲司, 糟谷 真宏, 瀧 勝俊, 大竹 敏也, 井上 栄一
    2024 年 23 巻 3 号 p. 179-186
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/09/30
    ジャーナル フリー

    本研究は,ウイルスフリー苗の利用が確立されているジネンジョ‘稲武2号’を対象として,普及が進む白黒ポリエチレンマルチ(マルチ)を栽培に用いた際の生育特性を解明し,カリウム施肥指針を策定することを目的とした.3年間の圃場試験によって,カリウム施肥量の違いが‘稲武2号’の生育時期別のカリウム吸収量,収量および品質に及ぼす影響を明らかにした.さらに,カリウム吸収量に基づいて適切なカリウム施肥量を試算した.茎葉のカリウム吸収量は7~8月に増加し,8月でほぼ最大値となった.一方,新生芋およびむかごのカリウム吸収量は8月以降に漸次増加した.‘稲武2号’のカリウム吸収量の合計値は9月にほぼ最大値となったことから,9月までのカリウムの供給が‘稲武2号’の生育には有効であると考えられた.カリウムを無施与で栽培した新生芋の新鮮重および粘度は,カリウムを施肥(25 g-K・m–2)した場合と同程度で,施肥量の差が‘稲武2号’に及ぼす影響は不明瞭であった.しかし,カリウムの収支と栽培前後の土壌中の交換性カリウム含量の変化量は正の相関を示したことから,‘稲武2号’が吸収したカリウムは土壌から収奪され,吸収されなかったカリウムは栽培後の土壌に残存していたことが示された.従って,栽培開始時の土壌中のカリウム含量の検討が必要であるが,慣行栽培では,土壌をマルチで被覆するので,基肥に‘稲武2号’の吸収量に相当するカリウムを21 g・m–2施用できれば,追肥を省力化し過不足のない施肥管理を実現できると考えられた.

栽培管理・作型
  • 大石(鈴木) 真実, 森川 信也, 瀬上 修平, 鈴木 敏征, 磯部 武志
    2024 年 23 巻 3 号 p. 187-193
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/09/30
    ジャーナル フリー

    夏季に多発する水ナスつやなし果軽減のため,昼温または夜温がつやなし果発生に及ぼす影響を確認し,細霧冷房導入によるつやなし果軽減効果を検討した.人工気象栽培装置を用いた調査では,平均気温が同じでも,昼の気温が35°Cを超える猛暑に遭遇するとつやなし果の発生率が高かった.プラスチックハウスに細霧冷房を導入し,昼間の気温を2~4°C低下させ概ね30°C以下に維持したところ,つやなし部分がないA品の果実数が増加し,可販果数が増加した.特に,盛夏期に収穫果実数が多くなった年の栽培では,販売不能となる程のつやなし果数の減少が顕著であった.

  • 別府 賢治, 白川 結貴, 大野 健太朗, 片岡 郁雄
    2024 年 23 巻 3 号 p. 195-203
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/09/30
    ジャーナル フリー

    キウイフルーツの湛液式非流動水耕における培養液の好適条件を明らかにすることを目的として,培養液の濃度,pH調整の有無,冷却がA. macrosperma台のキウイフルーツ幼木の栄養成長に及ぼす影響を調査した.実験1では,培養液の肥料濃度が‘ヘイワード’の生育に及ぼす影響を調査した.OATハウス肥料の濃度を,標準液の1倍,1/2倍,1/4倍とする区を設けて,5月下旬から7月中旬まで栽培した.補水量は1/4倍区と1/2倍区で1倍区よりも大きかった.1/2倍区や1/4倍区では新梢長や節数の増加量が1倍区よりも顕著に大きく,葉の光合成速度や蒸散速度も大きかった.実験2では,培養液のpH調整の有無が‘香川UP-キ2号’の生育に及ぼす影響を調査した.6月下旬から7月下旬まで,pH調整区では1日もしくは2日ごとにpHを6.0に調整したが,pH無調整区ではpH調整を全く行わなかった.pH調整区とpH無調整区で,補水量,新梢の生育および葉の光合成速度に大きな差異はみられなかった.実験3では,夏季における培養液の冷却が生育に及ぼす影響を調査した.処理区として,培養液を25°Cに冷却する区と対照区を設けた.2020年の実験では,‘香川UP-キ5号’を用いて,7月下旬から9月上旬まで培養液を冷却した.2021年の実験では,‘香川UP-キ3号’を用いて,7月上旬から9月上旬まで冷却した.2020年は2021年に比べて8月の気温が2.6°C高かった.2020年の実験では,冷却区で対照区に比べて新梢成長が著しく優れ,補水量も大きかった.2021年の実験では新梢成長や葉の光合成速度に処理間の差異はほとんどみられなかった.以上の結果から,耐水性の強い台木を用いたキウイフルーツの湛水式非流動水耕において,培養液の肥料濃度は標準液の1/2倍または1/4倍が適していること,1,2日ごとに培養液のpHを6.0に調整しても,無調整に比べて生育はほとんど変わらないこと,高温年には培養液冷却により生育が優れることが示された.今後,成木を用いて果実発育に適する培養液条件の検討を行う必要がある.

作物保護
  • 佐野 大樹, 川島 和夫
    2024 年 23 巻 3 号 p. 205-212
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/09/30
    ジャーナル フリー

    ナス‘千両’の促成栽培で問題となる日焼け果の軽減を目的に,まず果実への散布による日焼け果の軽減効果の薬剤間の差異を比較したところ,SFEを含む薬剤の散布によって無処理に比べて発生が顕著に減少した.続いて,日焼け果の発生軽減機構の検討のため,収穫2日前に樹上でSFEまたは脱イオン水を散布した果実について,収穫直後から25°C暗黒条件としたときの表皮からの水分の減少速度を3日間調査した.その結果,両処理ともに,収穫時の果実に占める乾物重量の割合は3日間でほとんど変わらなかった.一方,1および2日後にはSFEを散布した果実は脱イオン水を散布した果実に比べて新鮮重量の減少割合が有意に小さく,蒸散が抑えられていた.果実への散布による蒸散の抑制により,表皮の細胞が脱水・壊死しにくくなり,日焼け果の発生が軽減されるものと考えられた.0.07%だけでなく,総合的病害虫管理のために放飼されるタバコカスミカメへの悪影響がほとんどないとされる濃度である0.023%のSFEを果実に散布した場合でも,脱イオン水の散布に比べて日焼け果の発生が有意に少なかった.最後に,実用的な方法として0.023%のSFEを株全体に約10~14日間隔で定期的に散布する方法により,褐変日焼け果発生率が,対照のPHFE剤を散布した条件の7.0%に対して,2.4%と有意に減少した.この結果,上物果収量は,対照薬剤を散布した場合の6.14 kg・m–2に比べ,SFE散布条件においては7.26 kg・m–2と有意に多く,高い実用性が認められた.

普及・教育・利用
  • 山根 京子, 小林 恵子
    2024 年 23 巻 3 号 p. 213-223
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/09/30
    ジャーナル フリー

    日本の代表的な伝統的香辛野菜であるワサビの生産量が減少の一途をたどっている.主要卸売市場データによると1989年のピーク時に約460トンであった生産量は減少を続け2021年には220トンに半減した.2021年度には国内総生産量と生産額に占める静岡県の割合がそれぞれ89,90%となり,高いブランド力が示された.ピーク時には全国9割の都道府県で計上されていたワサビ生産も,2020年には九州や四国で生産量がない県が半数ほどになっていた.1962年に第2位であった島根県は生産量の落ち込みが著しく,流通や災害,単価の下落など複数の要因が重なった結果と考えられる.かつて約8割の都道府県で栽培されていた在来種も,生産者数の減少とともに消失した可能性がある.ワサビに限らず,薬味として利用されることが多い伝統野菜の品目は生産量の減少が目立ち,新規導入野菜との比較から,食の欧米化との関連性が示唆された.森林国日本ならではの食文化と食材は貴重な収入源となり,山村の地域振興も期待できる.生産者を守ることは資源や文化を守ることにつながるため,早急に対策を講じる必要がある.

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