園芸学研究
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最新号
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総説
  • ―形態および機能異常花と奇形果の発生要因―
    吉田 裕一
    2024 年 23 巻 2 号 p. 63-71
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/06/30
    ジャーナル フリー

    初秋の花芽分化期に低窒素栄養条件で成長させたイチゴは,正常な二出集散花序を形成する.しかし,‘愛ベリー’では高窒素栄養と高温によって花芽分化が抑制されると茎頂分裂組織が帯化する.ハウスやトンネル栽培では,様々な要因で雌ずいや花粉の稔性が低下するが,花粉媒介昆虫を利用することで正常な果実生産が可能となった.高窒素栄養条件下で花芽が発育すると,花床上の雌ずい列数が増加するため‘愛ベリー’では「先詰り果」や「先青(白)果」発生が増加する.また,施肥過剰やGA3処理などによって草勢が強くなりすぎると,花芽へのホウ素やカルシウムの転流が抑制され,がく片や新葉のチップバーンとともに「異常花」(‘宝交早生’),「受精不良果」(‘とちおとめ’・‘女峰’),「先絞り果」(‘さがほのか’)などが発生する.雌ずいの緑色化(「葉化」)はアジサイと同様にマイコプラズマ感染によって発生するが,雌ずいのがく片化はマイコプラズマではなく,雌ずい分化期の高温によって誘発される.「種浮き果」は果実肥大期のホウ素の転流不足,「頂部軟質果」については果実発育期の光合成産物不足によって発生すると考えられる.

原著論文
育種・遺伝資源
  • 山本 涼平, 尾形 凡生, 岩本 將稔, 米森 敬三
    2024 年 23 巻 2 号 p. 73-79
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/06/30
    ジャーナル フリー

    完全甘ガキ‘富有’,渋ガキの‘愛宕’および‘平核無’の3品種から1年間熟成して作製した柿渋原液のポリフェノール濃度を定量したところ,‘富有’由来の柿渋の濃度は半量程度であった.ただ,柿渋原液を凍結乾燥して得た柿渋乾燥粉末量は‘富有’で半量程度であったため,一定量の柿渋乾燥粉末を溶解して濃度調整した機能性測定用の試料サンプルではポリフェノール含量に品種間での有意性はなかった.そこでこの再調製した試料を用いて,DPPHラジカル消去活性を評価すると3品種ともに同等の強い抗酸化活性を示した.また,α-グルコシダーゼ阻害活性においても3品種ともに同等の阻害活性が認められ,さらにLineweaver-Burkプロットからα-グルコシダーゼ阻害様式はいずれも酵素の活性部位以外に作用する非競合阻害であると考えられた.以上の結果から,完全甘ガキ由来の柿渋も渋ガキ由来の柿渋と同等の機能性を有しており,健康機能性に着目した利用可能性が示唆された.しかしながら,これらの結果とは対照的に,マウスを用いた柿渋乾燥粉末溶解液の強制経口投与による経口グルコース負荷試験では,‘富有’由来の柿渋乾燥粉末溶解液は‘愛宕’由来の溶解液ほどの血糖値上昇抑制効果が認めらなかった.この点は,‘富有’由来の柿渋乾燥粉末の全糖量が‘愛宕’や‘平核無’と比較し有意に高いことが影響し,見かけの血糖値が高く測定された可能性が考えられた.また一方で,本試験の柿渋投与量を先行研究と比較したところ,ポリフェノール量が2倍近く低かった.従って,生体に対する効果の評価については,糖の存在を考慮に入れたうえで柿渋のポリフェノール含量を調整するなど再実験が必要である.

  • 河野 淳, 尾上 典之, 東 暁史, 佐藤 明彦
    2024 年 23 巻 2 号 p. 81-90
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/06/30
    ジャーナル フリー

    代表的なブドウ香気の1つであるマスカット香の遺伝には複数の遺伝子座が関与するとされるが,過去になされた複数のQTL解析で共通して第5番連鎖群に主要なQTLが検出されている.そこで,本QTL領域の4つのSSRマーカーNifts5-50910,Nifts5-50929,Nifts5-50937,VVII52により,国内で育成されたマスカット香品種を含むブドウ36品種・系統の遺伝子型を解析したところ,すべてのマスカット香品種が1つのSSRハプロタイプ(LG5-Hap1)を保有していた.このハプロタイプは‘マスカットオブアレキサンドリア’から‘ネオマスカット’,‘甲斐路’を経由し‘白南’から‘シャインマスカット’へ遺伝していた.このLG5-Hap1を保有する個体は,既に報告されているマスカット香と連鎖するCAPSマーカーもマスカット型であった.次に,農研機構で育成された75組み合わせによる交雑実生個体145個体をマスカット香保有個体群と非保有個体群の2群に分割し,それぞれの群でハプロタイプ保有率を比較したところ,LG5-Hap1保有率はマスカット香個体群で有意に高く,毎年安定してマスカット香を発現する交雑実生個体は常にこのハプロタイプを保有していた.果実香気がマスカット香となるには複数の座の関与が不可欠であるが,第5連鎖群のQTLに関しては既存のCAPSマーカーとともにLG5-Hap1に示されたSSR多型もDNAマーカーとして利用することができる.

  • 関根 綾, 佐竹 大樹
    2024 年 23 巻 2 号 p. 91-98
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/06/30
    ジャーナル フリー

    本県育成オタネニンジン品種‘かいしゅうさん’について,組織培養を用いて採種用株を作出し,原種を維持,増殖する技術を確立すること目的に試験を行った.供試材料については,1年生,2年生の未展開葉および展開葉小葉の先端側,基部側,小葉柄も供試した.その結果,不定胚形成数が最も多くなったのは1年生・展開済葉・小葉柄区であった.順化方法については,支持体をバーミキュライトとした液体培地下で無菌的に予備順化を行い,その後水耕栽培用ウレタンマットに培養個体を移植する水耕順化を行うことで生存率が8割程度と高くなった.水耕順化の期間中に落葉した個体にジベレリン酸を添加したところ,新葉が展開した個体が見られた.新葉のシュート長は落葉した葉のシュート長よりも大きくなり,形態も2年生に類似していたことから,落葉,新葉展開の過程をたどることで個体の株齢が進んだことが示唆された.加えて液体培地へのショ糖添加の効果を検討したところ,濃度に従って新葉展開数は増加した.予備順化,培土順化を行った培養苗をプランターに定植しパイプハウス下での生育を調査したところ,供試した4個体のうち2個体が生存していた.翌年にはこのうち1個体が開花,結実し7粒の種子を得ることができた.

繁殖・育苗
土壌管理・施肥・灌水
  • 水田 泰徳, 織邊 太, 神尾 真司, 井上 博道, 松本 和浩
    2024 年 23 巻 2 号 p. 109-118
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/06/30
    ジャーナル フリー

    近年,クリの凍害発生が顕著となっている.この要因として,新植により耐凍性の劣る幼木が増えたことに加えて,気候の温暖化傾向が凍害発生を助長していることが考えられる.そこで,本試験では年次,園地の凍害発生に影響する気象要因の解明を試みた.兵庫県加西市における過去11年間の凍害発生と気温および降水量との関係を検討した.その結果,1月の最低気温と被害程度,枯死樹率および1月の平均気温と被害程度の間に正の相関が認められ,これらの気温が高い年に凍害発生の多い傾向が認められた.次に,兵庫県下7園地における凍害発生と気象条件の関係について検討した.この結果,耐凍温度との関係が最も認められたのは最低気温であり,降水量や土壌水分との間には関係は認められなかった.しかし,最低気温に大差はなくても1年生枝の芽の耐凍温度には差が認められた.その要因として,立地が水田転換園や造成地で,土壌の気相率が低かったり,ち密度が高い場合,あるいは日照条件が良好であったり,家畜堆肥や厳寒期の元肥の施用を行った場合,耐凍温度が上昇して凍害発生につながる可能性が示唆された.

栽培管理・作型
  • 鎌田 えりか, 石井 孝典, 尾崎 行生
    2024 年 23 巻 2 号 p. 119-128
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/06/30
    ジャーナル フリー

    青果用より疎植での栽培が推奨される加工・業務用ホウレンソウの栽培において栽植密度が乾物生産に及ぼす影響を検討した.条間30,35または40 cm,株間5または10 cmで栽培したホウレンソウ群落について,日射遮蔽率(fi-SR),日射遮蔽量(DIR)および日射利用効率(RUE)に基づいて乾物生産を解析した.その結果,fi-SRとLAIの関係を表す吸光係数は栽植密度による差はなく,DIRはLAIによって決まると考えられた.栽植密度がRUEに及ぼす影響は年次によって異なり,2021年度は栽植密度による有意な差はみられなかったが,作期が遅く気温の急な低下がみられた2022年度は株間10 cm区のRUEが株間5 cm区より有意に高かった.生育過程では株間5 cm区の単位面積当たりの乾物重は株間10 cm区より有意に高い値で推移したが,加工・業務用としての収穫期には栽植密度の違いによる有意差は認められなかった.この原因として,生育初期は密植によるLAIの増加に起因するDIRの差によって株間5 cmの区で乾物生産量が多かったが,fi-SR飽和後には乾物増加量はRUEに依存することになり,積算DIRの増加に起因する増収効果が漸減したためと考えられた.今回試験した範囲では栽植密度によらず同等の乾物生産量となり,株間10 cm程度の疎植にすることで,株間5 cm程度の密植と同等の収量を維持したまま加工・業務用に適した形質のホウレンソウが得られると考えられた.

  • 奥 聡史, 山本 岳彦, 室 崇人, 塚﨑 光
    2024 年 23 巻 2 号 p. 129-136
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/06/30
    ジャーナル フリー

    本研究では,同一地理上のほ場に客土した低地土と黒ボク土での春まき栽培におけるタマネギの生育と肥大について調査した.供試した5品種すべてにおいて低地土区が黒ボク土区よりも2~10日早く倒伏・収穫が可能であった.生育期間中の経時的な調査では,肥大開始前の草丈や出葉数が低地土区で旺盛になり,早期にりん茎肥大を開始し始めていた.また,生育中期の6月における日平均地温が低地土で高い傾向であった.これらの要因を踏まえて,‘もみじ3号’における栽培年と土壌の処理区について分散分析を行ったところ,低地土が収穫物のりん茎重やりん茎の横径の増大に影響していた.さらに,土壌の物理性から,低地土は黒ボク土に比べて仮比重や固相の分布が高く,液相の分布は,黒ボク土の方が高かったため,より土中の水分量が多い黒ボク土は気化熱による地温上昇抑制や水分量過多による生育抑制が起きる可能性があると考えられた.一方で,これらの影響を受けにくい低地土では,生育旺盛になりやすいと推察された.本研究では,土壌の違いと気象データといった環境要因での生育の違いを調査したが,今後は,環境要因と遺伝的要因の双方に着目して,りん茎肥大を総合的に見ていく必要がある.

発育制御
  • 中野 善公, 津田 花愛, 山形 敦子, 足立 陽子, 佐々木 厚, 住友 克彦, 高瀬 智敬, 久松 完
    2024 年 23 巻 2 号 p. 137-146
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/06/30
    ジャーナル フリー

    電照設備と電照栽培適性の高い品種を用い,夏秋季の露地小ギク生産を計画的・安定的に行う技術が開発されている.本研究では,夏秋季の中でも需要が大きい一方で生産が不安定になりやすい8月需要期作型を研究対象とした.消灯後の自然日長と品種の日長反応性に着目し,計画安定生産に適する電照栽培用品種の選定指針を示した.露地電照栽培では消灯後の時期的・地理的な日長の違いが到花日数を変動させる要因の1つであり,特に8月需要期作型では消灯期である6月の長い日長による開花抑制が起こりやすいことを明らかにした.8月需要期作型では,無電照での開花期がそれより早く,電照で十分に花芽分化抑制ができる,という既知の適性品種の選定基準に加え,開花が日長に影響されにくい品種を選定することで安定生産できることを明らかにした.そのためには品種の限界日長を把握し,限界日長が長い品種を用いることが有効であることを示した.

収穫後の貯蔵流通
  • 澤田 幸尚, 曽我 綾香, 渡邊 清二, 吉田 誠, 永田 雅靖
    2024 年 23 巻 2 号 p. 147-154
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/06/30
    ジャーナル フリー

    本研究では,神奈川県が育成したトマト品種「湘南ポモロンレッド」の日焼けによる品質低下(着色不良)を抑制するため,果実を早期収穫した後の適切な追熟条件を検討するとともに,カロテノイド代謝系の遺伝子発現について解析した.催色期で収穫したトマトを各温度で追熟させた結果,20°C~25°Cの温度帯で追熟を行うことでリコペンが多く蓄積し,またその際に,カロテノイド生合成関連遺伝子の一つPSYおよびプロリコペンをリコペンへと異性化する遺伝子であるCRTISOの発現量も高くなることが明らかとなった.また蛍光灯の照射がカロテノイドの生合成に与える影響としては,照射によりリコペン,β-カロテンの蓄積が高まり,果実の着色も早くなることが明らかとなった.カロテノイド生合成遺伝子の発現も高まっており,蛍光灯の照射がカロテノイド生合成経路を活発化させることが明らかとなった.これらの結果より,「湘南ポモロンレッド」における最適な追熟温度,さらに光照射によるリコペンおよびβ-カロテンの蓄積増大を表現型および遺伝子発現レベルで明らかにした.

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