抄録
H. macrophyllaやH. macrophyllaとH. serrataの種間雑種には自家不和合性を示す系統があり,八重咲きなど劣性形質を目標とする育種の障壁となっている.そこでH. macrophyllaとH. serrataの種間雑種系統‘03NL3’を供試し,異なる開花段階における受粉処理や花序の温湯処理を行い,自家不和合性を打破する手法を検討した.開花2および4日後の両性花の自家受粉を行った後,蛍光顕微鏡を用いて,受粉3日後の花柱内における花粉管伸長を観察した.開花当日受粉区と比較して,開花2日後の受粉では花粉管の伸長促進効果はなかった.開花4日後受粉では花粉管は有意に伸長したものの,胚珠に到達した花粉管は全くなかった.一方,開花前日の蕾受粉では,開花当日受粉区と比較して,花粉管は約2倍伸長し,花粉管の一部は胚珠に到達した.また,花序全体を45℃の温湯に浸漬する処理では,3分または4分間処理において花粉管伸長は促進され,花粉管の一部は胚珠に到達した.‘03NL3’の蕾受粉,花序の温湯処理(45℃,4分間)および蕾受粉と温湯処理(45℃,4分間)の組み合わせ処理により得られた交雑60日後の自殖胚珠を1/2MS培地で培養した.得られた自殖個体を施設内で管理したところ,約半数の個体が交雑2年後に開花した.自殖個体の獲得率は,蕾受粉と温湯処理の組み合わせ処理区で最も高かった.