メタン発酵消化液の肥料としての適用場面拡大を図るために,水耕での利用を検討した.消化液はアンモニア態窒素を多く含むため,そのまま水耕に用いると作物にアンモニア害,亜硝酸害を引き起しかねない.そこで循環型養液栽培で一部導入されている除菌用砂フィルターの硝化能を活用することを試みた.消化液を砂フィルターで循環ろ過させたとき,ろ過面積0.0079 m2の熟成フィルターの硝化速度は1日当たり約180 mgNとなった.フィルターに流入させるアンモニア態窒素の濃度が高いと,硝化の中間産物である亜硝酸態窒素が蓄積しやすかった.硝酸態まで完全硝化させた消化液を用いてコマツナの湛液水耕を行ったところ,リン酸と微量要素を補うことで,地上部新鮮重が慣行とほぼ同等となった.さらに,砂フィルター付きNFT栽培システムにおいて,消化液原液で追肥しながらコマツナを栽培した結果,地上部新鮮重は慣行と同等となったが,草丈は慣行よりも低くなった.消化液に多く含まれるK,Na,Clなどが栽培期間中に培養液へ蓄積していったことが,草丈低下の原因と考えられた.実用的な利用のためには,これら過剰成分蓄積への対策を含め,今後,さらなる検討が必要である.