2024 年 23 巻 4 号 p. 301-310
セイヨウナシ(品種‘ラ・フランス’)は,収穫後1°Cで数週間予冷してから,室温に戻すと1~2週間後に果肉に独特のとろみ感が生じる.しかし,このとろみ感を物理的に説明できた研究はほとんどない.本研究では,‘ラ・フランス’のとろみ感を3種類の物性測定法により総合的に評価した.それらは,非破壊振動法,圧縮測定法,粘弾性測定法である.非破壊振動法で測定した硬度指標(E2)は,第2共鳴周波数と質量から求めた.粘弾性測定は,減衰振動現象を用い,7種の物性値を得た(体積弾性率(K),体積粘性率(ζ),ずり弾性率(μ),ずり粘性率(η),見かけのヤング率(Eapp),ポアソン比(σ),歪率).一般的な圧縮法による見かけのヤング率(Ecomp)も求めた.E2とEcompの間には高い相関が認められ,両者は同じような果肉の弾性を表していると考えられる.‘ラ・フランス’果実は予冷後,22°Cの室温に戻し,1日1個ずつ上記の3種の物性測定にかけたのち,官能試験に供試し,とろみ感評価値(5段階評価)を記録した.官能評価値を目的変数とし,測定で得られた物性値を説明変数として4種の重回帰分析を行った.その結果,変数増加法とステップワイズ法でとろみ感評価値はζ(体積粘性率)とη(ずり粘性率)の2つの説明変数で予測されることがわかった.それぞれの係数の符号から,とろみ感は果肉の体積粘性率,ずり粘性率の両者が減少することでもたらされると示唆された.